初恋と、二番目と
宍色の髪の男の子が、私に笑いかける。
『深月』
その笑顔が、その声が、好きだった。
彼の強さも、正しさも、大好きだった。
*****
目を覚ます。久々に錆兎の夢を見た。
ゆるゆると起き上がって、隣の布団を見れば、義勇がまだ寝息を立てている。
その顔は歪んでいたので、義勇も錆兎の夢を見ているのだろうと気付く。
今日は、数年前に私達が最終選別を突破した日だ。
私達の中では、錆兎の命日でもある。
「義勇。起きて、義勇」
隣の布団に手を伸ばし、大きく揺さぶる。
目を覚ました義勇は、目を見開いてこっちを見てくる。
彼の額に浮かんだ汗を、そっと拭いてあげる。
「義勇、大丈夫だよ。私はちゃんと居るから」
そう言うと、義勇の両手が伸びてきて、私の腕を引く。
抵抗しなかったので、私の体は義勇の上に倒れこみ、義勇にぎゅううと音がしそうな程強く抱き締められる。
「深月、すまない……すまない……」
「謝らないで、って毎年言ってるでしょう」
錆兎に守られてしまったのも、錆兎を守れなかったのも、私達は一緒だ。
私は、鱗滝さんのところに居たとき、錆兎が大好きだった。今も大好きだけど、それは過去の気持ちとはちょっと違う。
義勇は私の気持ちを知っていたから、私に感じる必要の無い負い目を感じているのだろう。
でも、今の私にとって一番大切なのは義勇だから、ちゃんと言葉にして伝える。
「私の初恋は錆兎だけど、二番目は義勇だよ。大好きだよ。生きててくれて嬉しいよ」
「そんなことはわかっている」
義勇が私の肩に顔を埋めて、そう言った。毎回同じ答えだ。
ああ、やっぱり、うまく伝わらない。
きっと義勇は、私が錆兎の代わりに義勇を好きになったと思ってる。そうじゃないのに。
そりゃあ、錆兎が生きてて、両思いだったら、私は今義勇の隣で寝てないと思う。
でも、錆兎の死に打ちのめされて、しばらく立ち止まっていた私と違って、義勇は自分を叱咤して柱になるまで鍛錬を積んだ。
鍛錬の合間に私の様子を見に来てくれて、立ち上がらせてくれた。
その頑張る姿や不器用だけど優しいところに、私は惹かれたのだ。
「ねえ、義勇。私は、錆兎の代わりにあなたを好きになったんじゃない」
「何度も聞いた」
「うん、何度も言ったけど、わかってないでしょ?」
「錆兎が死ななければ、深月は錆兎と……」
私は義勇に口付けて、その先の言葉を飲み込んだ。
唇を離すと、義勇は驚いているようで、口を半開きにしたまま固まっていた。
接吻するのは、初めてだった。
共寝も同衾も、何度かした。義勇は、これらもきっと、私が錆兎の代わりに義勇に抱かれてる、ぐらいに思っていたのだろう。
だからこそ、接吻はされたことがなかった。
これでもって、私の愛の証明とはならないだろうか。
「義勇、好き。愛してる」
私は微笑んで、何度目かわからない愛の告白をする。
義勇の瞳が揺れる。この反応は、漸く伝わったっぽい。
「深月、俺もだ。俺も愛してる」
初めて聞いた、義勇からの愛の告白に、私は嬉しくなって、彼の首に顔を寄せる。
*****
宍色の髪の男の子が、私に笑いかけた。
『深月、ごめんな……』
最後に見た彼の笑顔は、血にまみれていたけど、彼の清廉さが滲み出る、いつもの笑顔だった。
錆兎、私の方こそごめん。錆兎以外の人を好きなってしまった。
でも、錆兎は私達のことを祝福してくれるでしょう。だって、そういう男の子だったもの。
「深月」
今は、義勇が私に笑いかける。その笑顔は錆兎と違ってわかりにくいけど、とても愛しいと思った。
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