些細なことで
「お前は、自分が鬼殺隊に向いていないと気付かないのか?」
同門の義勇のその言葉を切っ掛けに彼と喧嘩し、深月は不貞腐れていた。
喧嘩というよりは、深月が一方的に機嫌を損ねただけだが。
深月は部屋の隅で膝を抱え、壁を向いて動こうともしない。
その背後に、困ったように笑う炭治郎と、相変わらずの無表情で何を考えているかわからない義勇が正座している。
「義勇さんから悲しそうなにおいがしますし、許してあげてください」
四つも五つも年下の弟弟子にそう言われて、深月は情けなくなったが、それでも義勇を許そうとはしなかった。
「だって、義勇が悪いもの!」
深月の態度に義勇は溜め息を吐き、一旦放っておこうと炭治郎に提案する。
炭治郎は申し訳なさそうな顔をしながらも、義勇に促され、彼と一緒に部屋を出ていった。
一人部屋に残され、深月は自分の膝に顔を埋める。
意地っ張りな性格をどうにかしたいのに、義勇に関してはなかなか上手くいかない。
気を許しているというのもあるだろうが、彼に関しては素直になれないことばかりだ。
今回の喧嘩だって、義勇に悪気はない。
彼の言い回しは独特だが、本当は何を言いたいのかは少し考えればわかる。
それを考えもせず、怒り散らしたのは深月の方だ。
義勇はきっと、鬼殺隊を辞めて普通の町娘のような幸せを手に入れてはどうだ、というようなことが言いたかったのだろう。
決して、深月が弱いから鬼殺隊に向いていない、という意味ではなかったはずだ。
それでも、義勇が自分の覚悟を軽んじているのだと思って、深月は一瞬でキレてしまった。
そのせいで後に引けなくなり、意地を張って、炭治郎まで困らせて、義勇には呆れられただろう。
どうしよう、と顔を上げた瞬間、深月は固まった。
目の前に、野花が差し出されていたからだ。
「機嫌を直せ」
淡々とした声が降ってきて、そちらを見ると義勇の顔が思いの外近くにあり、深月は思わず仰け反る。
仰け反った先は丁度障子の枠の角で、深月は盛大に頭を打ってしまい、痛みに呻きながら自分の頭を押さえる。
「何をやってるんだ……」
呆れた声でそう言い、義勇は深月の頭に手を伸ばし、打った箇所を触って確認する。
角で打ったようだが血は出てないし、コブも出来ていないようだった。
安心した義勇は手を離し、再度深月の目の前に野花を差し出す。
深月は目を見開いて、その名前も知らない花を見つめる。
「この花……」
「昔、好きだと言っていただろう?」
義勇に花を手渡され、深月はそれを胸元できゅっと抱き締めるように持つ。
確かに、修行時代にこの花が好きだと言ったことがある。
深月自身も、今の今まで言ったことを忘れていたぐらいの、些細なことだった。
修行時代、たまたま見つけたその野花を見て、深月単純に可愛いと思った。
一輪だけ詰んで、師である鱗滝に頼んで、飾らせてもらった。
それを見つけた義勇がどうしたのかと尋ねてきたので、深月はこう答えたのだ。
『さっき見つけて、これ好きだなあって思ったの』
義勇は相槌を打っただけで、深月が同じ花を摘んでくることは無かったし、話題にも上らなかった。
ただそれだけの、思い出話にもならない内容だった。
その些細な出来事を、義勇が覚えていてくれたのだと思うと、さっきまでがちがちに固まっていた深月の心は解けていった。
「ごめんなさい。意地を張って……」
「いや、俺の方こそすまない」
とりあえず謝ったものの、義勇は自分の何が悪いのか分かっていない様子だった。
深月がそれに苛つくことはなく、ふっと笑って、花を口元に持ってくる。
「これ、覚えててくれて嬉しい。ありがとう、義勇」
「深月のことなら大体覚えている」
「そ、そうなんだ……」
変な意味はないだろう、と思いつつも、義勇の発言に深月は照れてしまう。顔が熱くなって、義勇から顔を背ける。
義勇は首を傾げながら、深月に手を差し出した。
「機嫌が直ったのなら、稽古を再開するぞ」
「うん!」
差し出されたその手を、深月は素直に取って、義義勇と一緒に立ち上がった。
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