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方言女子と煉獄さん


今日は部署の飲み会で、お酒強くないのに断れなかった。でもノンアル飲めばいいや、って思ってたのが一時間前の話。

気付けば、私の前には色んな種類のお酒が並んでて、先輩方が男女問わず「これを飲みなさい」「あれを飲みなさい」って言ってくるから、まだまだ新米の私はそれらを飲み干すしかなかった。


******


ふわふわする頭で、先輩から勧められたお酒を口に運ぶ。
今までお酒を嗜む機会はあまりなかったけど、お酒というのは甘いのも辛いのもあって、甘党の私はジュースみたいに甘いカクテルが好みだった。

「ほら、これも美味しいから!」

そう言って先輩が差し出してきたのはいかにも辛そうな日本酒で、私はいやいやと首を振る。

「甘いのがいいです」

すると、他の先輩が小ぶりなグラスを差し出してくる。

「だったらこれは? カルーアミルク。さっき美味しいって飲んでたよ」

カルーアミルクか。それなら美味しかった記憶があるので、グラスに手を伸ばす。
しかし、その手はグラスに届く前に誰かに掴まれた。

「こら! 飲ませすぎだ!」

私の腕を掴んでいる手を辿ると、そこには憧れの上司が居て、彼はなんだか怒っているようだった。
怒っている顔がちょっと怖くて、いつもみたいに笑ってほしくて、私は上司に声を掛ける。

「煉獄さん、そんな怒らんどって」
「む!?」

上司──煉獄さんが、怒った顔から驚いた顔になる。周りもどこかざわついている気がする。
でも、私はとにかく煉獄さんの笑顔が見たかった。

「笑顔の方が好きやけん、いつもみたいに笑ってほしいっちゃけど……だめ?」

あれ、煉獄さんの顔が真っ赤だ。酔ってるのかな。
心配になって、煉獄さんの顔に手を伸ばす。ちなみに、掴まれていた手は、いつの間にか解放されていた。

「煉獄さん、どうしたと? 酔っとーと? 大丈夫?」

そう尋ねて、煉獄さんの額に手を当てる。ちょっと熱い。
酔ってるのではなく、熱があるのか、と心配していると、解放されていたはずの腕が、また掴まれる。

「ちょっと来なさい!」

そのまま引っ張られて、私はふらつきながらも立ち上がり、煉獄さんに着いていく。

そこからのことは、よく覚えていない。


******


目を覚ますと、私は自宅のベッドで寝ていて、ガンガン痛む頭を押さえながら起き上がる。
飲み会に行ったところまで思い出して、何があったか考えるが、途中からよく思い出せない。

先輩にお酒を勧められて、断れずに全部飲んで……それからどうしたんだっけ?

頭痛のせいで、思考がうまく回らない。これが二日酔いというやつか。

とりあえずお水を飲もうと思って、ベッドから立ち上がろうとした瞬間、なんだか違和感を覚えたので、自分の身体を見下ろす。

シャツは着ている。寝間着用に買った、太腿が半分くらいまで隠れるくらい大きめのやつだ。だが、下着を着けている感覚がしない。寝間着用の、ゴムがでるんでるんの短パンも履いてない。

辛うじて化粧は落としていたが、なんて格好で寝たんだ、と自分に呆れていると、不意にリビングへと続くドアが開いた。

え、私、一人暮しなんだけど。
一瞬身構えたが、出てきた人物に私は目を見開く。

「れ、煉獄さん……!?」

そこには憧れの上司が居て、私の頭痛は急激に悪化する。
この状況で記憶がないということは、だ。

「おはよう! 二日酔いになってないか?」
「な、なってます……」

煉獄さんが笑顔で話し掛けてくるので、つい素直に答えてしまう。
いや、心配してくれるのは嬉しいけれど、今は聞くべきことがある。

「あの、煉獄さん! 私、昨日……」

何をやらかしたんですか、と聞こうとして、思い出す。

私、上司にめちゃくちゃタメ口利いていた。
ひた隠しにしていた方言も、部署の皆にバレたことだろう。

でも、その後はやっぱり思い出せなくて、煉獄さんを見る。
彼は、昨日と同じ服装だった。ぴっちりネクタイまで締めていて、とても私とそういうことをしたようには見えない。

だが、しかし。私があられもない格好で寝ていたのも、煉獄さんがうちに居るのも事実で。
情報が処理できずに、私は頭を抱える。

「大丈夫か?」

煉獄さんが心配そうに近付いてくるので、私は咄嗟に布団を抱き寄せて身体を隠す。
よくよく考えれば、彼の前でシャツ一枚だなんて、恥ずかしすぎる。

「えっと……私、昨日は大変な失礼を……申し訳ございませんでした」

とりあえず昨日のことを謝ると、煉獄さんは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。

「昨日みたいに喋ってくれたらいいのに。可愛かったぞ」

急に煉獄さんが変なことを言うので、顔が一気に熱くなる。
煉獄さんから可愛いだなんて言われる日が来るとは思っていなかった。

彼が浮かべる笑顔はいつもの明るいものではなく色っぽくて、それを昨夜も見たような気がして、頭痛も相俟ってか、私は頭がくらくらするのを感じた。







 




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