痛くて甘い
隣には、なんだか難しそうな時代小説を読んでいる杏寿郎。
目の前のテーブルには、彼と私のコップが一つずつ置いてある。中身は両方とも乳酸菌飲料。
ただ、私のは牛乳割りで、杏寿郎のは炭酸水割りだ。
杏寿郎のコップをじっと見つめて、手に取ってみる。
「おい、それは俺のだぞ」
すかさず杏寿郎が声を掛けてくるけど、「わかってるよ」と短く答える。
手に持ったコップの中身は、しゅわしゅわと音がしていて、泡もできている。炭酸が入ってるから当たり前なんだけど。
見ているだけで口の中がきゅーってする。飲んだら痛そう。
それに口をつけようとしたら、視界の端で杏寿郎がぎょっとする。
「やめておけ。炭酸、ダメだろう」
「んー……」
返事にもならない声を上げて、そのまま杏寿郎のコップに口をつける。
中身をほんのちょっと口に含めば、やっぱり舌先がパチパチしてすごく痛くて、思わずぎゅっと目を瞑る。痛いのが先行して、味なんかよくわからないし、勝手に涙が出てくる。
「ほら、だからやめておけと言っただろう」
少し笑みを含んだ杏寿郎の声が聞こえる。くそう。
杏寿郎はよくこんな痛い飲み物を飲めるなあ、なんて思いながらテーブルにコップを戻すと、ふっと視界に影が差した。
何だろう、と思って振り向けば、顔を掴まれて唇を塞がれる。
目の前には杏寿郎の顔があって、びっくりして涙は引っ込んだ。
私の舌先を、何かがぬるりと掠める。この状況で何が掠めたのかなんて、決まってるけど。
杏寿郎の顔が離れて、にっこり笑う。
顔が熱い。耳まで熱い。びっくりして、声もでない。
あれだけ痛かった舌先には、甘い感覚しか残ってない。
ほんの少し細められた、赤と金の瞳が私を見ている。その瞳から目を逸らせない。
「うまいな?」
同意を求めるように言って、杏寿郎はぺろりと自身の唇を舐める。
そして、恍惚とした表情で、自分のコップを私に差し出してきた。
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