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フリージアに癒される


仕事は好きだけど、それだけじゃないのも事実で。
とんでもない業務量に耐え、ふらふらになりながら退社する。

時刻は九時を回っていて、今日はもうあと数時間しかない。

誕生日だったのになあ、と溜め息を吐く。
いや、喜んで祝うような年でもなくなってきたんだけど、誕生日と言えば恋人とのイベントだし。
年を取っても喜べなくなってきても、恋人と過ごす口実には持ってこいだと思った。

でも、もう遅い。あと数時間しかない今日のために、わざわざ彼を呼び出すなんて申し訳ない。
彼だって、仕事で疲れてるだろう。明日明後日は休日だから、別に今日に拘らなくてもいいしね。

言い聞かせるように考えながら、玄関に鍵を差して回す。

あれ、おかしいな。手応えがない。

もしかして、鍵を掛け忘れて家を出たのかと思ったけど、朝はスマホを忘れて一旦戻ったから、しっかり鍵を掛けた記憶がある。

だったら、泥棒、空き巣あたりか。やだなあ、怖いなあ。

あと、考えられるのは──

いやいや、まさかね。そんなわけないよね。
そう思いつつ、淡い期待を込めて玄関のドアを開ける。
靴を脱いで、廊下を進んで、リビングに続くドアを開けると。

「むっ!? もう帰って来たのか!」

照明に照らされて、きらきらと光っているのは、炎を思わせる色の髪。大好きな、杏寿郎の髪。

「杏寿郎……」

びっくりした。まさか、本当に杏寿郎が居るなんて。

「残業だと言っていたから、油断していた! 間に合わなかったな!」

そう言って、杏寿郎ははにかんで笑う。

テーブルの上には、私の好きな食べものが並んでいる。杏寿郎は料理ができないから、きっとわざわざお惣菜を買ってきてくれたのだろう。
でも、そのお惣菜はきちんとお皿に盛り付けてあって、ちょっと高そうなお酒と、ホールケーキまである。

私のために準備してくれたんだ、と思うと、年甲斐もなく目頭が熱くなった。

「あ、ありがと」

震える声でお礼を言うと、杏寿郎がぎょっとする。

「どうした!? 気に入らなかったのか!?」

やはりタルトの方がよかっただろうか、なんて真剣な表情で呟くから、思わず吹き出してしまう。

「違う、逆だよ。嬉しいの」
「よかった。さあ、手を洗っておいで。乾杯しよう」

杏寿郎は安心したように微笑んで、私の背中を押して洗面所へ促した。


*****


手を洗って戻ってから気付いたのだけど、杏寿郎が用意したろうそくは私の年の数と一緒で、普通は数字の形のやつとか、太いの混ぜるとかあるだろう、と思って、また笑ってしまった。

一緒に食事をして、明日出掛ける予定を立てる。
杏寿郎の笑顔を見ていたら疲れも吹っ飛ぶし、素敵な誕生日だ。
最後に、密集したろうそくが炎上しかけたのも、なんだかんだでいい思い出になった。







 




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