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幸せが続く


街を歩けばいい匂いがして、その匂いを辿って顔を動かせば、視界に飛び込んでくるカラフルな看板。

「杏寿郎くん、見て! クレープ!」
「待て! 走るな! 急に動くな! 足元を見ろ!」

美味しそうなクレープ屋さんを見つけて駆け出そうとしたら、杏寿郎くんにガッと腕を掴まれて制止された。
命令形で矢継ぎ早に降ってくる注意事項。

そんなに怒らなくても、と思って俯いたら、剥がれたブロックと大きめの段差があった。
これはこのまま走っていたら、確実にすっ転んでいたことだろう。

「ごめんね」

素直に謝って、杏寿郎くんの手を握る。
杏寿郎くんは、私の手を握り返して、指を絡めて恋人繋ぎにしてくれる。
付き合いたての頃から変わらない、この繋ぎ方が好きだ。

「クレープくらいゆっくり付き合うから、怪我には気を付けてくれ」
「はい、気を付けます」

そそっかしい私に呆れつつも、いつも心配してくれる杏寿郎くん。
彼の優しさが嬉しくて、私も指を絡めながら、彼の腕に引っ付く。太くて筋肉質で男らしい腕に、相も変わらず私はどきどきする。

杏寿郎くんを見上げれば、炎を思わせる色の髪に、それに見劣りしないくらい整った横顔。背も高いし、人柄もいい。

こんな素敵な人が私の恋人だなんて、私はなんて幸運なんだろう、と思うとにやにやが止まらなかった。


*****


クレープ、バナナジュース、肉まんにコロッケ。いろいろ食べ歩きをして、今日の晩御飯は焼き肉食べ放題だ。

次から次にお肉を注文して、どんどん焼いていく私達に、店員さんも他のお客さんも引いている。

「杏寿郎くん、カルビ焼けたよ」
「ホルモンももう食べれるんじゃないか?」
「わーい、ホルモン!」

杏寿郎くんのお皿にカルビを乗っけてから、ホルモンをばばっと回収する。
たれにつけて、ご飯と一緒に頬張れば、幸せが口いっぱいに広がる。

「おいしい!」
「それはよかったが……食べすぎだろう」

おっと、心外。大食漢の杏寿郎くんにそんなことを言われるなんて。

でも、杏寿郎くんはどれだけ食べても、あんまり体型が変わらないんだよね。私は食べたら食べた分だけ太るので、今後体重計に乗るのが怖いというのに。

それでも美味しいものを食べれる幸せには抗えなくて、私はじゃんじゃんお肉を焼く。

「太ったら、ダイエット付き合ってね」
「そうだな……まあ、多少肉が付いてもいいとは思うが」

そう言う杏寿郎くんの視線は私の胸元に向けられていて。私は咄嗟に胸元を両腕で隠した。

「杏寿郎くんのえっち。お外ですよ?」
「俺は『どこに』とは言っていない」
「すごーく見てたじゃない」

私が膨れて顔を背けると、杏寿郎くんがくつくつと笑う。

ちらりと横目で彼の様子を確認する。
笑顔まで整っている。ずるい。そんなに可愛い笑顔を見たら、怒る気なくなっちゃったじゃない。


*****


「美味しかったね!」
「ああ、うまかったな!」

手を繋いで、ゆっくり歩きながら帰る。
食べ過ぎたので、ちょっと動いて消化を促そうという考えだ。家までは駅二つ分だから、丁度いいと思う。

昼間と同じように、恋人繋ぎにして、杏寿郎くんの腕に引っ付く。お互い焼き肉のにおいがついちゃってるけど、それでもほんのり彼のにおいが混ざってて心地好い。

路地を抜けて、公園に入る。街灯の少ない公園の真ん中で空を見上げれば、綺麗なお月様。

「杏寿郎くん、月だよ。満月じゃなくても綺麗だね」
「うむ、そうだな」

私が立ち止まると、杏寿郎くんも立ち止まってくれる。
些細なことでも耳を傾けてくれて、私に合わせてくれる杏寿郎くんは、少しも恩着せがましいことを言ったりしない。そういうところもすごく好き。

「杏寿郎くん、おうち帰ったら運動しよっか」
「どうした、急に」

ちょっと大胆なことを思い付いてお誘いしてみたら、杏寿郎くんが驚いた顔でこちらを振り向いた。
目をぱちくりと瞬かせて見開くから、大きな目がさらに大きくなる。

じっと向けられる視線に恥ずかしくなって目を逸らす。

「酔ったのかも」
「烏龍茶しか飲んでないだろう」

そうなんだけどね。酔ったことにでもしないとやってられないじゃん。
私はえへへっと笑って誤魔化す。

杏寿郎くんの腕を引いて歩き出せば、彼も着いてきてくれる。
しばらく黙って歩いていると、杏寿郎くんがからかうように口を開いた。

「どういう運動をするつもりだったんだ?」

絶対わかってて言ってる。お誘いなんかするんじゃなかった。

「知らない!」
「知らないことはないだろう。君が言い出したんだぞ」
「知らない。杏寿郎くんの意地悪」

顔が熱い。恥ずかしくて顔から火が出そう。
杏寿郎くんの腕を離して距離を取ろうとしたけど、すぐに肩を抱かれて引き寄せられる。

「じゃあ、君の胸に肉が付くような運動でもしようか」

杏寿郎くんが、私の耳に吐息がかかるように囁くから、心臓が速くなりすぎて止まりそうになる。

「お、お手柔らかに……」
「どうだろう。明日も休みだしな」

私は思わず短い悲鳴を上げる。だって、杏寿郎くんってそういうの容赦ないんだもの。

杏寿郎くんはなんだか挑戦的な笑みを浮かべていて、ああこれは逃げられない、と覚悟を決めた。







 




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