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孔雀草


とても強いだろう鬼を倒しに行く、という任務で、柱の方と一緒になった。
柱が出てくるとは、相当強い鬼なのではないかと、内心震えながら任務に向かったが、あっさりと終わってしまった。

強かったのは一匹だけで、そいつは柱の方が倒してしまい、私達その他の隊士は周囲の下級の鬼を斬るだけだった。

その簡単な任務が終わった後、柱の方がぐるんと音がしそうな勢いでこちらを振り返った。

「俺は煉󠄁獄杏寿郎だ!!」

あ、はい、存じております……というか、めっちゃ声でかいな……

とりあえず、返事をしなければ失礼だろう。
私は軽く会釈をする。

「私は雨宮深月と申します。炎柱様とご一緒できて、光栄でございました」
「そうか!怪我も無さそうでよかった!雨宮、これから稽古でもどうだ!!」

声大きいうるさい……そして早速稽古とは。え、そんなに私の呼吸下手くそだった?名指しで誘われ、ちょっと傷付く。

周囲を見回すと、他の皆は蜘蛛の子を散らすように逃げていった……何故?

柱の方のお誘いを断れる程、私の精神は強靭ではないので、私は渋々煉󠄁獄様に着いていくことにした。

現場を去る直前に、同僚の一人が近付いてきて、「柱は化物だ。炎柱について行けば、お前はきっと死ぬ」と脅された。


*****


柱の稽古は過酷だった。
耐久八時間、休憩無し、ひたすら稽古、水も飲めない、食事も出来ない。

汗まみれで床に這いつくばる私と違って、煉󠄁獄様は爽やかなお顔で素振りをしてらっしゃる。同僚が言っていた通り、柱は化物だ。そりゃ皆逃げるわ。

「れ、煉󠄁獄様……大変申し訳ございませんが……休憩させていただけないでしょうか……」

息も絶え絶え、なんとか訴えると、煉󠄁獄様は外を見る。
時間を確認しているのだろう。夜明け前から稽古を始めたので、お日様はとっくに昇りきっておりますけれども。お気付きにならなかったのだろうか。

「休憩するか!」

煉󠄁獄様の言葉に、産まれて初めて嬉し涙を流した。


*****


休憩のため、煉󠄁獄様が縁側に座ったので、私は少し後ろで正座をする。それに気付いた煉󠄁獄様は、私を振り返って、ご自分の隣をぽんぽんと叩いた。

「何故そんなところに座っている?おいで」

急に優しく微笑むものだから、少しだけ心臓が高鳴ったではないか。私は顔が赤くならないよう、心を落ち着けながら、煉󠄁獄様のお隣に移動する。

風が気持ちいい。汗で肌に張り付く稽古着の襟を持って、ぱたぱたと自分の首元を扇ぐ。汗が乾くまでこうしていたいが、手が疲れてきたので止める。

ふと、煉󠄁獄様が喋らなくなったなあ、と横を見ると、同じ瞬間に、煉󠄁獄様がそっぽを向いた。

「煉󠄁獄様?」

煉󠄁獄様を覗き込むが、いまいち角度が悪くてお顔が見えない。諦めて体勢を戻し、立派なお庭を眺める。

「……様付けでなくてよい!」

お、やっと喋ってくれた。横目で煉󠄁獄様を確認すると、彼もお庭を眺めていた。

「では、煉󠄁獄さん?」
「俺には父も弟も居る!皆、煉󠄁獄さんになってしまうぞ!」
「……では、杏寿郎さん?」
「うむ!」

私としては柱をお名前で呼ぶなど、恐れ多いのだが……満足そうなお返事だったので、従おう。

「それと、男の前で襟を動かすのは良くない!」
「え!?」

私としては涼んでいただけだが、煉󠄁獄様──杏寿郎さんから見たら、はしたない行為だったのだろう。それで、そっぽ向いてたんだ。

「申し訳ございません……あの、さっきのは、涼んでいただけで……」
「わかっている!しかし、深月は女性だろう!気を付けるべきだ!」
「えっと……はい……」

呼ばれ方が名字から名前に変わっていて、また少し心臓が言うことを聞かなくなる。

そこで、ふと思い出す。杏寿郎さんがそっぽを向いたのは、私が襟で扇ぐのを止めた後ではなかったか。

柱と言えども男性なのだな、と思うと急に恥ずかしくなって、何も言えなくなってしまった。

杏寿郎さんも喋ってくれないから、弟さんがいらっしゃるまで、二人で黙ってお庭を眺め続けた。








 




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