表紙 目次
しおりを挟むしおり一覧  




@


その村では、花嫁行列の途中で花嫁が消え、翌日花嫁衣装だけが発見されるということがあるらしい。

それも、今に始まったことではなく、十年以上前からだという。




「花嫁だけ食べる鬼……それはまた、変わった性癖で……」

深月の感想はそれだった。
鬼について説明したしのぶは、困ったように笑っていて、その隣には相変わらず無表情の冨岡が座っている。
 
「花嫁行列の途中で花嫁だけ連れていくんですよね?それって、まだ日があるうちにするものじゃ……」
「それがですね、この村では花嫁行列から祝言の儀式等まで、全てを真夜中にするという風習があるらしいのです」

しのぶの答えに、深月は合点が行く。
花嫁の晴れ姿を、まさか真夜中にお披露目する風習があったとは。真夜中にそんなことをすれば、そりゃ鬼に襲われることだろう。

しかし、それなら花嫁を護衛するだけで鬼と遭遇できるので、自分一人でもこなせる任務ではないかと深月は考える。

自分に加え、しのぶと冨岡、二人の柱まで出てくるほど強い鬼ということだろうか。

深月の考えを察したようで、しのぶは整った顔で微笑み、説明を再開する。

「村の方のお話から考えて、その鬼はおそらく幻術の類を使うことが予想されます。後遺症が残った方もいらっしゃいますし、何かあった場合すぐに治療できるように私が。そして──」

しのぶは微笑んだまま、五本の指をきっちり揃えて、冨岡と深月を手のひらで交互に指し示す。

「冨岡さんと深月さんには、祝言を挙げていただきます」
「はい?」
「はっ?」
「えっ?あれ?」

深月どころか、冨岡も声を上げて驚く。
冨岡も任務の内容を知らなかったと気付き、深月だけ二回も声を上げてしまう。

「まあまあ、祝言といっても真似事ですよ。花嫁だけが隊士でもいいのですが、白無垢は動きにくいので危険かと思いまして」
「だからって、なんで冨岡さんと私が!?」
「深月さんに関しては、今まで消えた花嫁と特徴が似ているので、適任かと。万が一に備えて新郎役は柱の中から選ぶことにしたのですが、一番無難な外見だったのが冨岡さんでしたので……」
「それって、私が鬼好みの餌ってことですか?」

しのぶはニコニコと愛らしい笑みを浮かべるだけで答えない。それが肯定を意味していた。

「冨岡さん、しっかり花嫁さんを守ってあげてくださいね」
「……承知した」
「え、承知しちゃうんですか?」
「さあさあ!花嫁さんは準備をしましょう!」
「ちょっと待ってください!他にも方法が……」

ごねる深月を押さえ込み、しのぶはテキパキと事を進めた。


*****


鬼狩りに協力してくれるという家の女性達に囲まれ、あれよあれよという間に白無垢を着せられた深月は、不満そうにしている。

「花嫁さんがそんなに不満そうでは鬼から不審に思われてしまいますよ」
「そんなこと言われましても……」

しのぶに諭されたが、深月としては気が気じゃないのだ。

花嫁衣装といえば、女性であれば一度は憧れるものだが、鬼殺隊の剣士として着るには、動きづらいことこの上無い。日輪刀を隠し持つことも難しい。

しかも、新郎役は、深月が秘かに想いを寄せている冨岡なのだ。

重ねて言えば、村の人間の話によると花嫁が消えるのは新郎の家に着く直前らしい。決まって、新郎の目の前で消えるのだ。つまり、絶対に冨岡に花嫁姿を見られる。

恥ずかしいやら嬉しいやらで、深月は眉間に皺を寄せてしまい、再びしのぶに注意される。それによって眉間の皺は戻すが、不満そうな顔はそのままだ。

そこで、急に襖が開いた。遠慮なく冨岡が入ってくる。

「ちょっと冨岡さん!着替え中だったらどうするおつもりですか!」
「終わったと聞いて来た」

それでも、入る前に声を掛けるべきだとしのぶが責めるが、冨岡は気にする素振りを見せないまま、深月に視線を移す。

数秒見つめたあと、「俺も準備してくる」と出ていく。

「感想無しですか。こんなに綺麗なのに……失礼な人ですよねえ?」

しのぶは深月を振り向き、すぐにぎょっとする。
そこには、真っ青な顔で今にも泣き出しそうな深月が居た。

「どうされました?」
「いえ……なんでもないです」
「そんな顔で、なんでもないわけ……落ち込んでらっしゃいます?」

深月は力なく首を横に振る。
彼女の全身が、落ち込んでいると言っている。

少し期待していたのだ。もしかしたら、「綺麗」と言ってくれるかもしれないと。
しかし、相手は冨岡だ。そんな期待、無駄だったのだ。

「鬼狩り様……」

落ち込んでいる深月と、どう声を掛けるか悩んでいたしのぶに、準備を手伝っていた中年女性の一人が声を掛ける。声を掛けた時点で、床に額が着きそうなぐらい頭を下げていた。

「私の娘は、二ヶ月前に消えました。初恋の相手と祝言を挙げるんだと、幸せそうだったのに、その最中に……」

女性の声が、震え始める。
続く話によると、彼女にはあと二人の娘がいるとのことで、このまま娘を嫁がせるのが怖いと。村の風習も、自分達の世代には変えられないと。

「鬼狩り様も若い娘さんですので、私も大変心苦しいのです。申し訳……」
「大丈夫ですよ。私達が鬼を倒します。あなたの娘さんが、安心して好きな人の元へ嫁げるように」

謝罪しようとする女性の言葉を遮り、深月が優しく言った。
女性は思わず顔を上げ、その顔立ちに、深月は息を呑む。

(私が選ばれるわけだ)

目にいっぱいの涙を浮かべる女性は、深月とよく似た顔立ちだった。彼女の、消えたという娘も、まだ二人いるという娘も、きっとそっくりなのだろう。

この女性としても、自分の娘そっくりの深月が危険を冒すことに、ひどく心を痛めていることだろう。

「謝らないでください。私は大丈夫です。この村で、これから嫁ぐ娘さんも、きっと大丈夫です」

深月は、しのぶの真似をするように、優しい微笑みを浮かべた。

自分の落ち込みなど、この村の女性の恐怖に比べれば、些細なことである、と深月は自分の心に蓋をする。








 




  表紙 目次

main  TOP