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診療所は感染者でいっぱいだった。
軽症者も重症者も入り乱れ、どこまでが隔離区域かもわからない。
単純に、感染者が多すぎるのだ。

その状況を鑑みて、ジュリアはガイアスにいくつか提案した。

「患者の部屋を分けたいので、家を借りられませんか? 重症者と軽症者で部屋を分けたいんです。家族でも面会は無しで」
「わかった。手配しよう」

ガイアスは頷く。

「私、精霊術も得意なんです。時間は掛かりますけど、一人一人に掛ければ……」
「任せる」
「あ、治りかけの方も軽症の部屋に。一度病に罹れば免疫ができるはずなので、再感染はしばらく心配ないかと」
「そうか。医師に伝えておく」
「それに、ここは雪国なので、火の精霊術や暖炉で寒さ対策をできる造りの家だとありがたいです。精霊術が必要なら私が掛けます」
「手配の際に伝えておく」

どれもすんなり受け入れられて、ジュリアは少し不安になる。

「あの……大丈夫ですか?」
「何がだ?」

ガイアスは本当にわからない、と言った顔で返す。

「こんな小娘の……しかも他国民の言うことを、すんなり聞いて……」
「お前は害をなす気があるわけではないだろう?」
「それは、そうですけど……」
「言われた事は出来る限り手配する。問題が出れば改善策を求める。それだけだ」

手放しで信頼されているわけではないが、やろうとしている事は認めてくれているらしい。

ジュリアは短く礼を言って、診察室に向かって行った。


*****


家は診療所の近くをすぐに手配され、部屋数も広さも問題なかった。むしろ、お屋敷と呼べるくらい広い家だった。
重症患者、軽症者、診察室、医療従事者の休憩室など、必要なだけ分けることができた。

早速患者を移動させ、ジュリアは医療従事者と共に看病に走り回る。

患者からの評判はよかったが、カン・バルクの医療従事者からはひんしゅくを買っていた。

ジュリアが患者のカルテを持って走っていると、すっと差し出される誰かの足。
ジュリアは、それに引っ掛かるほど間抜けではなかった。
ひょいと飛び越え、足の主を辿って見る。

足の主はカン・バルクの看護師だった。三年前、ジュリアを看病してくれた人物とは別人だ。
看護師の顔は怒りで真っ赤になっていた。

「隔離くらい、私達だって思い付いてたわよ!」

看護師の後ろには、あと二人の別の看護師。

「王に『家を貸してほしい』だなんて、贅沢な意見言えるわけないじゃない」
「しかも、こんなお屋敷……絶対、王に言われたから、持ち主が明け渡したのよ!」

ジュリアは小さくため息を吐いた。
今、こんなことにかかずらってる場合ではないのに。

「王様は、必要なら手配するって言ってくれましたよ。問題があるなら改善策を求める、とも」

ジュリアだから意見を聞いてくれたわけではない。
そんな贔屓をするほど、ガイアスは私情を挟まないし、ジュリアは特別な人間ではない。

看護師達が陳情しても、ガイアスは同じ対応をしただろう。

それを伝えたいだけなのに、看護師達は怒りの表情のまま、去っていった。

「どこの国も、女って一緒なのね……あの看護師さん、元気かなあ……」

ジュリアはまたため息を吐いてから、三年前のことを思い出す。

カン・バルクの雪や寒さで熱を出したジュリアを、丁寧に看病してくれた女性看護師。
カン・バルクに来てから数日。彼女を見掛けていないが、城に詰めているのだろうか。それとも、別の地域に行っているのだろうか。

(あの人だったら、認めてくれたかもしれないのにな)

少しだけ残念な気持ちを残しつつ、ジュリアは仕事に戻った。










 




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