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緑の鈴を貴女に願う 六 十五歳
深月は悪夢で目を覚ました。
この深月は十五歳で、惨劇の夜の後、蝶屋敷で療養している頃の深月だ。
さらに細かく言うと、しのぶやカナエからも、杏寿郎からも弟子入りを断られ、杏寿郎に『嫌い』と言い放った直後だ。
ぼうっとする頭で、深月はここ数日のことを思い出す。
俄には信じがたいが、今、自分は鬼狩りになっていて、しかも血鬼術とやらにかかっていて、一晩毎に成長しながら元の年齢に戻っている途中らしい。
心のどこかで理解はしているのに、脳の処理が追い付かない。
そのせいで、悲しいはずの家族の死を、いまいちしっかり受け入れられない。
悲しいし辛いのは確かだが、記憶の中の感情と、今の自分の感覚にずれがある。
これは、十八歳の自分の影響なのだろうか。
そこまで考えて、有り得なさすぎて頭が痛くなってきた。
深月はとりあえず体を起こそうとして、布団の妙な重みに気付いた。
横を見れば、所々が赤い、燃えているような色の髪が見えてぎょっとする。
十五歳の深月の記憶より成長しているが、杏寿郎だ。何故彼が側で寝ているのか。
そもそもここ数日、しのぶや蝶屋敷の少女ではなく、杏寿郎が幼い自分の世話をしてくれていた。
この深月の記憶では、あんなに険悪になった相手なのに。
何故、どうして、と思いながら深月が体を起こせば、寝台が揺れて杏寿郎も目を覚ます。
深月は自分の体を隠すように布団を手繰り寄せ、怪訝な顔で杏寿郎を見つめる。
杏寿郎は深月を見るとへにゃっと笑って、深月に口付けた。
あまりにも突然のことで、深月は避けることができなかった。
深月が状況を理解できず硬直している間に、杏寿郎は彼女の頬を両手で包み、何度も口付ける。
それは唇だったり、頬だったり、額だったり。
「深月……深月。ああ、やっぱり君は愛いなあ」
何度も何度も名前を呼ばれながら接吻され、深月は恥ずかしさと怒りによって、真っ赤になり震える。
止めてほしくて、逃げ出したいのに、気が動転して布団を握り締めることだけしかできない。
今にも泣き出しそうだが、なんとか堪える。
杏寿郎は任務明け、早々と深月の元に来ていた。順調に成長していれば、今日が惨劇の夜を思い出す日だろうと考えていたからだ。
その際には深月の側に居てあげたいと思い、病室で寝ている彼女の横に座っていたのだが、ついさっき寝入ってしまったのだ。
ここ数日ほとんど寝ていない杏寿郎は、珍しく寝惚けている。そのため、寝る前に考えていたことは頭から抜け落ち、深月が完全に戻っていると思い込んでいる。
さらには、深月と触れ合っている夢を見ていたものだから、その続きと勘違いもしている。
「んっ!?……んんんー!!」
杏寿郎の舌が唇を割って侵入してくるものだから、深月はくぐもった悲鳴を上げた。
さすがに布団を離して杏寿郎の腕を掴むが、力が強くて全く離れてくれない。
首を固定されて、前歯の裏、上顎、舌先と、今まで触れたこともないような箇所を舐められる。
深月は舌を引っ込めるが、それはすぐに杏寿郎の舌に絡め取られ、挙げ句の果てには強く吸われる。
まるで食べられているかのような、深い口吸いだった。
こんなの知らないはずなのに、なんだか気持ちよくなってくると同時に、とても怖くなり、深月は目を閉じて堪えきれなくなった涙をぽろぽろと流す。
背中がぞくぞくして、下腹部がぞわぞわして、自分の体が自分のものじゃないみたいだ。
口吸いは角度を変えながら何度も続けられ、自分の耳に厭らしい水音が響き、深月は朦朧とする。
そのうち、深月の口の端からどちらのものかわからない唾液が溢れる。
深月は限界を感じて、杏寿郎の胸を強く押し、彼の唇を思いっきり噛んだ。
杏寿郎の唇から血が溢れる。
突然の痛みで目が冴えてきた杏寿郎は、深月の様子がおかしいことに気付き、彼女から離れて冷や汗を流し始める。
自分が知っている深月と反応が違う。眉間に皺を寄せ、泣きながら睨んできている。これは相当怒っていて、嫌がっている顔だ。
普段の深月は時と場合によって怒りこそすれ、嫌がることはない。
まさか、とんでもないことをやってしまったのではないか、と杏寿郎が思った瞬間、深月から強烈な拳が飛んできた。
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