表紙 目次
しおりを挟むしおり一覧  



(109/160)  


第四章  二一


深月はハッと目を開ける。

汽車に戻っている。
隊服も着ているし、背中にちゃんと日輪刀もある。

幻から抜け出せたのだ、と気付き、深月は日輪刀を鞘ごと抜いて腰のベルトに差す。

そして、直ぐに刀を抜いて構えた。

汽車の中が、肉の塊だらけだったからだ。
気色の悪いそれらは、それぞれが意思を持っているかのように動き、目を閉じている乗客に向かって伸びていく。

深月は息を深く吸い、日輪刀を持つ両腕に力を込める。

「炎呼吸 参ノ型 気炎万象」

肉塊が乗客に触れる直前に、それらを全て斬り落とす。
しかし、肉塊は斬った端から再生し、また伸びていく。

これは厄介だ、と深月は眉をひそめる。

周囲を確認するが、杏寿郎や炭治郎達の姿はない。
深月も乗客も無事なことを考えると、彼らが既に死んでいるとは考えにくい。
きっと、先に目覚めていて、既に別の場所で戦闘中なのだろう。

「多分汽車全部がこう・・なんでしょうね」

そういう鬼なのだろう。
もともと汽車と一体化していたか、深月達が眠っている間に一体化したのか。

おそらく後者だろう。
もし、もともと一体化していたら、炭治郎達がにおいや音で気付いたはずだ。

あわよくば、眠っている間に深月達を始末するつもりだったのだろう。
それでなくとも、その間に汽車との一体化を果たしたわけだ。

「随分慎重な鬼なのね」

深月は、嘲笑うかのように口角を上げる。

汽車と一体化したところで何だと言うのか。
そう、思ったのだ。

鬼である以上、どこかに頚は存在する。
今、同行している隊士は炭治郎、善逸、伊之助の三人と、柱の杏寿郎だ。

深月も加え、五人もいる。
もしかしたら、禰豆子も数に入れていいのかもしれない。

楽観視するわけにはいかないが、決して無謀な戦いではないだろう。

深月は足に力を込め、跳躍した。
周囲の肉塊を斬り落としつつ、隣の車両へ向かう。

いちいち開閉する余裕はないので、戸は蹴破って破壊した。


*****


一番後ろの車両まで到着し、肉塊を根元まで斬り刻む。
また戻ろう、と深月が踵を返した瞬間、大きな音と共に車両が大きく揺れた。

数秒もしないうちに、杏寿郎が目の前に現れる。
彼はいつもの笑顔で、深月に声を掛ける。

「おはよう、深月!起きたか!」
「すみません!私が最後だったみたいで!」

深月は日輪刀を構えたまま謝罪する。

杏寿郎は「気にするな」と返してから、彼女に現状を説明する。

この汽車は八両編成だ。杏寿郎は後方五両を守る、と。
残りの三両は善逸と禰豆子に任せた。
炭治郎と伊之助は、前方三両の状態に注意しつつ鬼の頚を探すよう指示した。

「深月は、二両目から五両目の四両分を守ってくれ!二両目と三両目を重点的に頼む!」
「はい!」

深月は頷いて、前方の車両へと跳躍する。
自分が二両目から五両目を守るということは、善逸、禰豆子、杏寿郎の負担を減らすということだ。

それぞれの負担が減れば鬼の頚を探す余裕が出来る。
さらにその中のどこかに頚があれば斬れる。

杏寿郎に深月の手助けはそんなに必要ないだろうが、ないよりはましだろう。

善逸と禰豆子については、まだ子どもだ。
弱くないだろうが、下の子を守るのは年上の役目だ。

深月は二両目に到着する。

肉塊が善逸と禰豆子を背後から狙っていて、今にも捕らえようとしていた。

「炎の呼吸 壱ノ型──不知火」

深月は瞬時に間合いを詰め、肉塊を斬り落とす。
善逸と禰豆子が深月を振り向く。

善逸は目を閉じていて、起きているようには見えなかった。眠ったまま戦っているのだろうか。
しかし、真剣な表情をしていて、起きている時のような気弱さは感じられない。

禰豆子は初めて会ったときのような大きさになっていた。十四、五歳くらいの少女に見えるが、その爪は鋭く、瞳はやはり鬼のそれだ。
それでも必死に戦っていたようで、額に汗をかいている。

深月はにっこりと笑い、二人の頭をそれぞれ撫でる。

「遅くなってごめん。頑張ろうね」

そう言って、隣の車両へ移動した。

鬼殺隊には、子どもが多い。
親を亡くして、剣士になった者が多いからだろう。
そして、殆どが大人になるまで生き延びれない。

炭治郎も、善逸も、伊之助も、年の頃はまだ十五、六程度だろう。

深月も、彼らと同じ年頃に剣士になった。
杏寿郎やしのぶはもっと早かった。

禰豆子は鬼だが、あの炭治郎の妹だ。
元は、心優しいただの少女だったはずだ。

(なんで、子どもがこんなことしなきゃいけないのよ……)

深月の怒りは鬼へと向く。
目の前の肉塊を、人々を食らおうという鬼を、片っ端から斬り刻む。

毒はあまり効果がなかった。体積が大きすぎて、いつもより動きが止まる時間が少ない。

しかし、限定された場所で、数が多いだけの肉塊を斬るのに、それほど苦労はしなかった。

深月は乗客を守るべく、怒りを発散するべく、ひたすら日輪刀を振るった。





 




  表紙 目次

main  TOP