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第四章 二四
木を薙ぎ倒して、薙ぎ倒して、ひたすら薙ぎ倒す。
(なんだ、この女……ここを更地にするつもりか!?)
上弦の参は眉をしかめる。
その考えは、正解だった。
深月にとって、この鬼の頚は硬い。きっと、一人では斬れない。
だったら、陽光に曝してしまえばいい。
頚は斬れなとくとも、足止めくらいはできるだろう。
深月は陽光が差すだけの空間を確保すると、上弦の参に向かって跳躍した。
木陰にいる鬼を、陽光の下に引きずり出そうとする。
「やめろ!俺はお前に興味が無い!」
「だから何!?」
興味を持たれようが持たれまいが、そんなの深月にとってはどうでもよかった。
杏寿郎を傷付け、彼の胸に穴を開けた目の前の鬼がただ憎くて、この世から消し去ってやりたいとだけ思った。
人々のための鬼殺は、いつの間にか頭から抜け落ちていて、今の彼女を突き動かすのは怒りと憎悪だけだ。
「くそ!退け!」
暗器を投擲してきて、逃げる先へ回り込んでくる深月に、上弦の参は悔しそうに悪態を吐く。
上弦の参は逃げるばかりで、なかなか陽光の下に引きずり出せない。
深月は舌打ちをして、また別の木を薙ぎ倒す。
上弦の参は動揺する。
急に出てきたこの女隊士は、見たところ杏寿郎程強くはない。杏寿郎に守られていたガキよりは強いだろうが、脅威を感じる程でもない。
それなのに、彼女の狂気染みた行動に、怒りと憎しみを剥き出しにした表情に、どこか見覚えがあるように感じた。そして、それはとても不快なものに感じられた。
深月は上弦の参の心中など察することなく、刀を振るい続けた。
しかし途中で、様子がおかしいことに気付く。
上弦の参は、避けたり逃げたりするだけで一向に反撃してこない。
先程、深月に後頭部をぶつけたのでさえ陽光から逃れるためで、深月自体を攻撃するつもりはないように見えた。
反撃してこないのであれば、十分太刀打ちできる。
そう考えて、深月は上弦の参との距離を思いっきり縮める。
腕でも脚でも斬って、斬れなくとも刺して、陽光の下に引きずり出そうとしたのだ。
だが、その瞬間、上弦の参は深月に向けて手を伸ばした。
心底悔しそうな、不本意そうな顔で、彼女の襟を掴んで投げ飛ばす。
予想が外れた深月は、抵抗できずに飛ばされていく。
それは結構な勢いで、枝をいくつも折り、体は傷付き、大きな樹木にぶつかって止まったときには、鬼の姿はどこにもなかった。
気配を探ろうとしたが、既に遠くに逃げているようで、足取りも掴めなかった。
「あああああ!」
深月は叫んで、拳を地面に叩き付ける。
自分の情けなさに反吐が出そうだった。
胸に穴が開いた杏寿郎を見て、頭が真っ白になった。すぐに行動できなかった。
一人では上弦の参の頚を斬れなかった。斬ることを前提に考えられなかった。
そして何より、鬼を取り逃がしてしまった。
杏寿郎をあんなに傷付けて、胸に穴を開けた鬼を。
何度も拳を地面に叩き付けた後、深月はふと思う。
杏寿郎はもう死んでしまっただろうか、と。
彼のいない世界で生きていくことを考えると、ぞっとした。
一瞬、このままここで自分の頚を斬って自害しようかと考えたが、彼の死に目に会えないのも辛かった。
(きっと、槇寿郎様や千寿郎君はもっと辛い……)
肉親であり、杏寿郎と過ごした時間が深月よりもずっと長い彼らは、どう足掻いても杏寿郎の死に目に会えない。
それに比べて、自分は杏寿郎と最期に話せるかもしれない。
深月は血だらけになった拳を解き、ふらふらと立ち上がる。
杏寿郎がまだ生きていることを願って、彼の元へと急いだ。
*****
上弦の参に投げ飛ばされたおかげで、随分と戻っていた。
この分なら、すぐに杏寿郎の元へ戻れるだろう。
深月は重たくなった身体を無理矢理動かし、走り続ける。日輪刀を鞘に収める時間すら惜しくて、刀は握ったままだ。
程なくして、木々の切れ目が見えてきた。
その先は明るくなっていて、降り注ぐ陽光の中に、杏寿郎や炭治郎達の姿が見えた。
善逸は見当たらないが、伊之助は杏寿郎の後ろで大人しく立っている。
杏寿郎と炭治郎は向かい合わせになっていて、何か話しているように見えた。
杏寿郎がまだ生きている。
それが分かると、深月の足は速まった。
死に目に会うために来たつもりだったのに、最期に話ができればいいと思っていたのに、死んでほしくないと思った。
彼のいない世界で生きていくなんて、耐えられない。
森を抜ける頃には、深月の目から大粒の涙が溢れていた。
「いやああ!杏寿郎さん!」
深月は悲痛な声で杏寿郎の名前を叫び、日輪刀を投げ捨て、転がるように彼にすがり付いた。
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