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生存if 弐  三一


あの汽車での任務から、結構な日数が経った。

炭治郎達は三人とも任務に復帰するぐらい回復したというのに、杏寿郎は未だに目覚めない。

炭治郎が伝えてくれた杏寿郎の言葉のおかげで、千寿郎の顔色は大分良くなった。
槇寿郎も何か思うところがあったらしく、酒を飲まなくなり、態度も徐々に変わってきた。

深月も睡眠はまだ杏寿郎の側でないとままならないが、食事はきちんと摂れるようになってきた。

それでも、彼女の顔色は激務のせいでなかなか良くならない。

それなのに、何故か太り始めていて、深月は困惑していた。

「普通痩せるんじゃないかな……」

食事の量は戻ったが、鍛錬を再開しているし、杏寿郎の代わりはとんでもない激務だ。
痩せるならともかく、太るなんて有り得るのか。

「どこかおかしいのかな。しのぶさんに相談……いやでも忙しいしなあ」

しのぶはもちろん、深月も今は忙しい。
杏寿郎の見舞いついでに相談もできるが、「太りました」なんて相談、しのぶを困らせるだけだろう。

鍛錬を増やそうか、と考えながら、深月は任務に向かった。


*****


その日の任務もなんとか終わらせ、深月は杏寿郎の病室にやって来た。
彼にしばらく話し掛けて、そのうち彼の側で眠りにつく。

ここまではいつも通りだった。

しかし、その日の深月はなかなか目覚めなかった。
千寿郎が来ても、しのぶが来ても、悪夢に魘されても、ずっと眠り続けた。

悪夢に魘されるのはいつものことだったが、今までの彼女は誰かが近付いてきたら飛び起きていた。
夢の中で杏寿郎が傷付くところを目の当たりにして、彼に近付く気配を警戒しているのだ。

眠っていると気配の区別がつかないらしく、最近は千寿郎すら警戒する始末だ。

それなのに、彼女は目覚めない。
どうにも様子がおかしくて、千寿郎は深月のことが心配になった。

「深月さん、深月さん。今夜も任務なんじゃ……帰ってお食事を摂らないと……」

千寿郎は深月に声を掛けながら、彼女の肩を揺する。
睡眠も大事だが、食事を摂らねば一晩動き回るのは辛いだろう。

深月はそれに反応して呻き声を上げるが、目を覚ます気配はない。

「様子がおかしいですね。今夜はお休みにしてもらうよう、手配しておきます」

しのぶは自身の鎹烏を呼んで、早急に深月の代わりを手配する。

急だが、一晩くらいなら、深月の代わりに杏寿郎の担当地区の警備にあたる隊士を集められるだろう。
階級が高めの一般隊士を複数名動員すればどうにかなる。

これを柱でもない深月が一人でどうにかしていたのだから、彼女には感服するしかない。

しのぶは微笑んで、深月の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。

「このまま起きないようでしたら、深月さんのことは蝶屋敷でお預かりします。お食事も準備しておきますので、心配しないでください」

千寿郎にも微笑みかけ、そう言った。

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。でも、少し待ってみようと思います」

千寿郎も笑顔を返し、深月の隣に座った。


*****


深月が目覚めたのは、夕刻のことだった。
千寿郎は既に帰っていて、病室には杏寿郎と彼女だけが残されている。

「え……」

窓の外が茜色になっているのを見て、深月は青ざめる。

寝過ごしたどころじゃない。
今から準備して、任務に間に合うだろうか。
食事も摂ってないし、一晩持つかどうか。

慌てて立ち上がろうとして、体勢を崩した。

椅子を巻き込んで、結構な物音を立てながら床に倒れる。

「あ、あれ……?」

深月は困惑しつつ、寝台を支えにして立ち上がる。
空腹と寝起きによる立ちくらみにしては、視界がぐるぐると回りすぎている。

自分の体は一体どうしてしまったのだろうか、と深月が考えていると、アオイが病室に駆け込んできた。

「どうされました!?」

アオイは深月を見ると、直ぐ様彼女には駆け寄り肩を貸す。

「大丈夫ですか?しのぶ様を呼んできます」
「でも……」
「診察室に行きましょう。大人しくしていてください」

しのぶに迷惑を掛けるのが悪くて、深月は断ろうとしたが、アオイがぴしゃりと言い放つので何も言えなくなる。

こういうところがしのぶに似ているなあ、などと思いつつ、深月は大人しくアオイの指示に従う。

アオイは肩を貸すより持ち上げた方が早い、と考え、深月の膝裏に腕を回し、彼女を抱き上げる。
アオイも任務に行けないだけで、鬼殺隊の剣士として修行を積んだ身だ。深月一人抱えるくらいは造作もない。

親切心はありがたいが、年下の女の子に抱えられるというのはなんだか気恥ずかしくて、深月は困ったように眉を下げる。

深月が恥ずかしそうにしていることには気付いていたが、アオイはそのまま深月を診察室へ抱えて行った。





 




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