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生存if 弐  三三


湯浴みの間、深月はぐるぐると同じ事を考えていた。

杏寿郎と結婚すると決めた以上、いつかは彼との子供が欲しいとは思っていた。
杏寿郎は気にするなと言っていたが、煉獄家の跡継ぎを産むべきだろう、とも思っていた。

でも、何故、杏寿郎が目覚めていない今、妊娠がわかってしまったのだろう。

杏寿郎の妻という大役になるのだって、決断するのにかなりの時間を要した。
それなのに、彼の子供の母親になるなんて、決断できるわけがない。
人の子の親というのも、自分なんかに務まるのか不安なのに、杏寿郎の子どもであれば尚更だ。

嬉しいのに、怖くて不安で、しかし涙は出なくて、深月は湯船に浸かったまま、しばらく呆けていた。


*****


深月が湯浴みを終え、杏寿郎の病室の戸を開けると、まだ槇寿郎と千寿郎が居た。

逃げるように湯浴みに行ったし、彼らは杏寿郎の家族なのだから当然か、と深月は渋々病室に入る。

槇寿郎と千寿郎は、深月の服装に少し驚く。

深月は、比較的生地が柔らかい着物を着ていた。
槇寿郎や杏寿郎にもらった着物に比べると、かなり安価なものだ。

彼女の性格上、任務に行くと言い出しそうなものなので、隊服ではなく着物を着てくるなど、槇寿郎も千寿郎も思っていなかった。

彼らの想像は正しく、深月は初め隊服を着ようとしていた。
しかし、それを察したアオイが着物を用意し、あまり締め付けない着付けを施したのだ。

日輪刀や暗器も取り上げられ、それらは蝶屋敷で一旦預かることになった。
どこに持って行かれたのか、深月も聞かされていない。

深月は槇寿郎と千寿郎の視線に気付き、気まずそうにしながらも、アオイが着物を用意してくれたことと、武器を取り上げられたことを二人に説明した。

すると、二人とも納得したような顔になり、深月に座るよう促した。

深月が寝台横の椅子に座ったのを確認してから、改めて槇寿郎が口を開く。

「腹の子は、杏寿郎の子供だろう?」

その問いは、別の男も子供かと疑っているような聞き方ではなく、確認のために聞いているような声音だった。

そこは嘘をつく必要もないので、深月は静かに頷く。

しかし、頷いた彼女の顔はどこか不安そうで、槇寿郎は深月が子供を産みたくないのではないか、と思い始める。

それは千寿郎も同じだったようで、彼は震える声で深月に尋ねる。

「深月さん、もしかして……産みたくないんですか?」
「そういうわけじゃ……」

深月は俯いて拳を握り締める。

産みたくないわけじゃない。
でも、産みたいかと言われたら、それはわからない。

ただ、産むのは怖くて、不安で。
かといって、堕胎なんて選択は嫌で。
そもそも、もしかしたら、もう堕ろせない時期かもしれない。

頭の中がごちゃごちゃだ。

杏寿郎が目覚めてくれたら、すぐにでも「産む」と決断できるのに。

「私、自信なくて……杏寿郎さんが起きないのに……」

槇寿郎と千寿郎の心配そうな視線に耐えきれず、深月はぽつりぽつりと胸の内を口にする。

内容は上手く纏まらなかったが、昨日から考えていたことを言葉にすれば、ほんの少しだけ気持ちが楽になったような気がした。

深月の話を聞き終えると、槇寿郎は千寿郎に茶を淹れてくるよう頼んだ。
千寿郎は快く頷き、病室を出ていく。

戸が閉まってから、槇寿郎は深月の側に歩み寄り、床に膝を突いて彼女の顔を覗きこんだ。

それに気付いて、深月はぎょっとする。

「槇寿郎様、お召し物が汚れます!」
「深月」

槇寿郎は慌てて立ち上がろうとする深月の手を握り、静かな声で彼女の名前を呼んだ。

その声によって深月は大人しくなり、槇寿郎は深月の手を握る手に力を込める。

ひょっとしたら千寿郎より細いくらいの彼女の手には、剣だこがたくさんできていた。
一般的な女性らしい柔らかさなどなく、分厚く硬い皮膚は剣士の手だ。

「今まで辛く当たってすまなかった」

突然の謝罪に、深月はきょとんとした顔になる。
それを見て、槇寿郎は困ったように眉を下げながら、また口を開く。

「杏寿郎の子供を、何も一人で産めと言っているんじゃない。俺も千寿郎も居る。例え……」

そこで少し言い淀んで、しかし意を決したように続ける。

「例え、杏寿郎がこのまま目覚めなかったとしても、お前はずっとうちに居ていいんだ」

その言葉を聞いて、深月の目にうっすらと涙が浮かぶ。
ついさっきまで、どんなに怖くても不安でも出なかった涙が。

「どうして、そこまで……」
「深月は、俺の娘になるんだろう?俺に、お前の父親の真似事をさせてくれ」

そう言って、槇寿郎は眉を下げたまま笑った。

その笑い方は千寿郎そっくりで、話し方は杏寿郎そっくりで、やはりこの人は彼らの父親なのだ、と深月は改めて実感する。

「か、考えてみます……」
「ああ、頼む」

結局、深月は曖昧な答えしか出せなかったが、それでも槇寿郎は嬉しそうに目を細めた。





 




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