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生存if 弐  三九


不死川に着いて行き、蜜璃と一緒に入った部屋で、深月はそわそわと落ち着かずにいる。
他の柱の面々も揃ったが、自分は本当にここに居ていいものか不安になっているのだ。

自分が杏寿郎の後釜なんて、特に不死川や伊黒は気に食わないのではないだろうか。

深月がそんなことを考えていると、不意に声を掛けられた。

「深月さん。お体の調子はどうですか?」

声を掛けてきたのはしのぶで、深月を安心させるようにいつもの朗らかな笑みを浮かべている。

「問題ないです。ありがとうございます」
「休暇が長かったようだが、本当に雨宮に柱が務まるのか?」

次に尋ねてきたのは冨岡だった。
冷たい言葉に、深月はびくっと肩を震わせる。

冨岡としては、深月を心配しての発言だったのだが、その心遣いは深月に全く伝わっていない。

「一応、槇寿郎様や杏寿郎さんにお墨付きを頂いたんですけど……すみません、頑張りますね」

困ったように笑う深月を見兼ねて、しのぶが話題を変える。

「冨岡さん。深月さんはもう『雨宮さん』じゃありませんよ。『煉獄深月さん』です」

冨岡は「そうだったな」とだけ答える。
会話が続かないが、しのぶは気にせず深月に笑い掛ける。

いつの間にか、柱達の視線が自分に集中していて、深月ははにかんで笑う。

「あの、杏寿郎さんと区別しにくいと思いますので、『雨宮』でも『深月』でも、好きな方で呼んでください」

深月は煉獄家に嫁入りしたので、もう『雨宮』ではない。
別に旧姓に拘りはないし、どちらかというと『煉獄』の響きの方が好きだが、杏寿郎と区別をつけないと不便だろう、と考えたのだ。

そこで、ガラス細工のように透き通った声が響く。

「大変お待たせ致しました」

声の主は、声と同じく透き通るような肌の女性だった。
彼女の後ろには、当主の子供が二人控えていて、その子供と彼女はそっくりだった。

(お館様のご息女のお母様だよね……と、いうことは。奥方様!?)

当主の奥方の顔を初めて見た深月は、内心驚く。

奥方──産屋敷あまねは、とんでもない美人だった。
しのぶといい蜜璃といい、鬼殺隊の上層部は顔が整った女性が多い。

あまねの話によると、当主である耀哉は病状の悪化により、今後表に出てくることが難しくなったようだ。
そのため、あまねが彼の代理を務めるらしい。

柱の面々も深月も、それを責めるつもりは一切なく、あまねに頭を下げる。
悲鳴嶼が代表して、あまねに励ましの言葉を掛ける。

彼女は表情を変えず、ただし何かを思っているような間を開けてから、礼を述べ、本題に入る。

まずは、深月の柱就任について。

「煉獄深月様。産後の大変な時期にも関わらず、復帰ならびに炎柱への就任を決意してくださったこと、改めて御礼申し上げます」

あまねに声を掛けられ、深月は慌てて深々と頭を下げる。

「とんでもないです。私が、そうしたかっただけです」

本当は、子供を置いて危険な任務に出向くのはどうかと思った時期もあった。
槇寿郎も千寿郎も心配していたし、今も息子が泣いているんじゃないかと不安になる。
それでも、深月は早めの復帰を選んだ。

自分が目標とした杏寿郎の代わりを務めたいという気持ちもあったが、何より息子が剣など持たなくていい世界にしたかった。

一日でも早く鬼舞辻󠄀無惨を倒して、鬼のいない世の中にしたかった。

そのためには戦うことなど怖くないが、杏寿郎や他の柱のように後輩の盾になる気はない。
きっと、息子の元へ帰ることを、一番優先してしまうだろう。

「私達の息子が、鬼狩りなんかしなくて済むようになってほしいだけです……他の方々のような、崇高な意志は持ち合わせておりません。申し訳ございません……」

一拍置いて、あまねが答える。

「お気持ち、よくわかります」

その声は、今までと違って優しさや温かさが込められていて、深月は思わず顔を上げる。
あまねと目が合ったが、彼女は無表情のままだった。

そのまま、あまねは次の話題に入る。

日の光を克服した鬼が現れたことにより、鬼舞辻󠄀無惨が己も太陽を克服するためにそれを狙ってくるだろう。そのため、大規模な総力戦が予想される。

そして、上弦二体との戦いの際、蜜璃と時透に独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっている。
その条件を二人から教えてほしい、とのことだった。

この痣については、伝承が曖昧らしいが、今わかっている情報を、あまねは柱の面々に伝える。

そして、今のこの世代で最初に痣が現れたのは、炭治郎とのことだ。
彼の説明は要領を得ず、一旦置いておいたが、蜜璃と時透に痣が発現したので、条件の追究に乗り出したらしい。

「御教示願います。甘露寺様。時透様」

あまねに合わせて、彼女の子供二人も軽く頭を下げる。

それを見て、蜜璃は一生懸命といった様子で口を開く。

「ぐあああ〜ってきました!グッてしてぐぁーって!心臓とかがばくんばくんして、耳もキーンてして!メキメキメキィッて!!」

当主の妻で、一人の美しい女性でもあるあまねに頼られて嬉しかったのだろう。
蜜璃は興奮して説明しようとしたが、何を言っているか、この場の誰にも伝わらなかった。

予想外の説明に、場が静まり返る。
これを説明と言っていいかは甚だ疑問だが。

それぞれが驚いた顔で蜜璃を見つめる中、伊黒だけが暗い顔で額を押さえている。

「申し訳ありません。穴があったら入りたいです」

恥ずかしくなった蜜璃は静かになり、土下座というか、ほぼ蹲るような形で頭を下げる。

それを見ながら、深月は数年前の蜜璃の修行時代を思い出す。

あれは、杏寿郎との手合わせを見せた時のことだっただろうか。

『蜜璃ちゃん、今のが炎の呼吸です。どうだった?』
『師範、深月ちゃん!今、ぐわぁーってなって、バキッて感じでした!すごいですね!!』
『うむ!なるほど!何を言っているのかわからん!』

可愛い可愛い妹弟子は、杏寿郎が理解を諦めるほどに言語化が苦手だったなあ、と懐かしくなった。





 




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