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生存if 弐  四十


蜜璃と違い、時透の説明は論理的だった。

彼も痣には気付いていなかったが、その時の戦闘で思い当たることはあるらしい。

まず、強すぎる怒りにより、心拍数が二百を超えていたこと。
次に、体温は三十九度以上になっていただろうこと。

それを聞いて、しのぶが目を見開く。
そんな、命にも関わるような状態で動けるのだろうか。

時透は、そこで死ぬか死なないかが、痣が出る者と出ない者の分かれ道だと考えているようだ。

この時透の考えを元に、痣の発現を目指すのが、柱の急務となった。

しかし、あまねが「痣の訓練について伝えなければならないことがある」と説明を付け加える。

「もうすでに痣が発現してしまった方は選ぶことができません……」

そして、続いた言葉に、深月は息を呑んだ。

痣が発現した者は、例外なく二十五歳を待たずに死ぬ。

そういう記述も残っていたらしい。

深月は、まず既に痣が発現している炭治郎、蜜璃、時透のことを心配した。
彼らは、長くとも二十五歳までしか生きられないのだ。そんな悲しい話があるだろうか。

それから、『痣を発現させるわけにはいかない』と思った。

どんなに責務が大事でも、二十五歳までに死んでしまっては、息子の側に居られない。あの子の成長を見届けられない。
鬼がいない世の中になっても、それでは意味がない。

柱として情けなくとも、これだけは譲れない。

深月が俯いて冷や汗を流しているうちに、いつの間にか話は終わり、あまねも子供たちも退室していた。

冨岡も退室しようと立ち上がり、不死川がそれを引き止める。

「それぞれの今後の立ち回りも決めねぇとならねぇだろうが」

しかし、冨岡は彼を見もせずこう言った。

「七人で話し合うといい。俺には関係ない」

その言葉に、伊黒が眉間に皺を寄せる。

「関係ないとはどういうことだ。貴様には柱としての自覚が足りぬ」

伊黒の発言に反応したのは、冨岡ではなく深月だった。
彼女は肩を震わせ、膝の上で拳を握り締める。

やはり、冨岡の言った通り、自分などに柱は務まらないのではないか、と。
ずっと考えているが、柱としての責務より、息子と一緒にいることの方が大事だ。

(こんなことなら、鬼殺隊辞めるべきだったかな……)

深月が落ち込んでいる間に、冨岡と不死川が一触即発という空気になる。
蜜璃が必死に止めようとするが、不死川の耳に彼女の言葉は届いていない。

不死川が冨岡の背中に手を伸ばしたところで、部屋に轟音が響いた。

何事か、と深月は顔を上げる。

どうやら、悲鳴嶼が手を叩いた音だったらしい。
それにしてはかなり大きな音で、ビリビリと部屋ごと震えるほどだった。

「座れ……話を進める……一つ提案がある……」

悲鳴嶼が静かに言うと、冨岡も不死川もそれに従い、元の位置に座り直した。

悲鳴嶼の提案は、『柱より下の階級の者たちに、柱が稽古をつける』というものだった。

基本的に、柱は継子以外に稽古をつけない。
理由は単純に忙しいからだ。

しかし、禰豆子の太陽克服以来、鬼の出没がピタリと止んだので、柱にも時間の余裕ができた。
その余裕を有効利用して稽古をつければ、隊士のためになる。

さらには、隊士の相手をすることにより、柱も体力向上が見込め、痣が出せるようになれば尚良い。
すでに痣が出ている者は、常に『痣状態』でいられるように訓練していく。

その過程で得た情報を隊全体で共有することにより、全体の力を上げられる。

これに反対する者はいなかった。

話が纏まりかけたところで、深月はおずおずと手を上げた。

「あのぅ……私、稽古をつける側じゃなくて、つけてもらう側になれませんか?」
「あァ!?」

不死川に睨まれ、深月は短い悲鳴を上げる。
しのぶが困った顔で不死川を宥め、深月に続きを促す。

「私、柱になったばかりですし、人に教えられるようなことは何もなくて……それに、実戦からずっと遠退いてましたし……」

きっと、自分が稽古をつけても、大して役に立たない。
だったら、稽古に参加する側になって、実戦の感覚を取り戻した方が鬼殺隊の為になると思ったのだ。

「じゃあ、煉獄さんに頼んだら?」

そう提案したのは、時透だった。
深月は少し考えてから、申し訳なさそうに首を振る。

「すみません、子供の世話を任せてますので……」

それと、と深月は続ける。

「できれば、私は痣を出したくありません」
「はあァ!?さっきから、ふざけてんのかテメエ!!」

ついに、堪えられなくなった不死川が深月の胸ぐらを掴む。
しのぶがまた仲裁に入る前に、深月は不死川の腕を掴んで口を開く。

「ごめんなさい!私はあの子の側にずっと居たいんです。あと四、五年で死ぬわけにはいきません!」

不死川の腕を強く握り締め、眉を下げて叫ぶ。

「だって、あの子のお母さんは私だけだもの!!」

不意に不死川の腕から力が抜け、解放される。

「情けないことを言っている自覚はあります。柱を辞めろと言うなら辞めます。申し訳ありません」

深月は畳に額が付きそうなほど頭を下げる。
少しして降ってきたのは舌打ちと、「勝手にしろ」という不死川の声だった。しかし、その声に先程までの怒気はほとんど感じられなかった。

深月はゆっくり顔を上げ、不死川を見る。
彼は、なんだか今にも泣きそうな顔をしていた。

不死川は元の位置に戻り、どかっと座る。
この場で怒っていたのは彼だけで、その怒りは何故か治まったらしい。

他の柱の面々は怒っていなかった。
伊黒だけは不満そうにしていたが、杏寿郎の息子のためなら、と何も口にしない。

不死川は溜め息を吐いて、深月を見る。
こちらの怒りが治まったことが不思議なのか、間の抜けた顔をしている。

(他の理由なら、シバき倒したのによォ)

子供にとって、母親がどれだけ大きな存在か、不死川は身を持って知っていた。





 




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