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生存if 弐  四五


「あら?深月ちゃん、具合悪いの?」

心配そうに眉を下げる蜜璃に、深月は「大丈夫だよ」と笑顔を作って返す。

おそらく、疲れが顔に出ていたのだろう。
こんなことで蜜璃を心配させてはいけない、と自身の頬を両手で摘まんでむにむにと揉み回す。
少しでも表情筋を解して、笑顔を作りやすくするためだ。

ちなみに、疲れている理由は蜜璃には言えない。
いや、誰にも言えない。

ここ最近、杏寿郎から毎日のように抱かれています、だなんて。

彼の様子がおかしくなったのは、時透の稽古に行ってからだ。
そうなった原因については、深月もさすがに察している。杏寿郎とはもう何年もの付き合いだし、彼はこういう事に関して意外とわかりやすい性格をしている。

(子どもに嫉妬しなくてもいいじゃない……)

深月は表面上笑顔を作りながら、心の中で溜め息を吐く。

杏寿郎は、まだ子どもの時透に嫉妬したのだ。
確かに、深月も時透を特別可愛がった自覚はある。距離感も一時的にとち狂っていた。

しかし、やはり時透は五つも六つも年下の子どもだ。炭治郎達よりも下だろう。

ただ、弟みたいで可愛いと思っただけなのに。
死んだ一番上の弟も、下の子が産まれた時は、びくびくしながら抱っこしていたのを思い出して、懐かしくなっただけなのに。

あの日以降、稽古を終え、任務を終え、帰宅すると杏寿郎に襲われるようになった。
拒否をしても、疲れていると主張しても、必ず最後までされている。

杏寿郎は柱を引退して、筋力も衰えたくせに、長年の戦いで身に付けた技術というか勘というか、そういったものは変わらず優れていて、素手だと未だに敵わないのだ。

それに、彼の眼帯や腹の傷跡を見ると、彼の死角を攻める気にも彼を投げ飛ばす気にもなれなくて、結局体を許してしまう。

杏寿郎も、任務や稽古に支障が出ないよう気遣ってくれているが、そういう気遣いが出来るなら、最初から襲わないでほしい。

深月は再度心の中で溜め息を吐いて、蜜璃の稽古に参加した。


*****


蜜璃の稽古では、謎の服を着せられ、音楽に合わせて踊ったり、と独特な内容だった。

その謎の服は手足が丸々出る造りだったので、深月はやんわりと拒否し、一人だけ隊服のまま参加したが。
稽古といえども、他の隊士の前で出来る格好ではなかった。

そして、柔軟が始まり──

「ギャアアアア!!」

まだ若い男性隊士の悲痛な叫び声が甘露寺邸に響く。

彼の前で、蜜璃は相も変わらず可愛い笑顔を浮かべ、「頑張って!」と男性隊士を応援している。

彼女の手は男性隊士の両手を掴んで離さず、両足は男性隊士の足首辺りに添えられ、無理矢理開かせていた。

柔軟というのは、日々の積み重ねが大切だ。
一朝一夕で蜜璃並みに柔らかい体を手に入れられるわけがない。

しかし、いつまでも悠長にしていられないのも事実で。

蜜璃は殆ど力技で、隊士の体を次々に解していく。

隊士が痛みに悲鳴を上げようが、逃げようともがこうが、彼女の怪力の前では身動ぎすらままならない。

いよいよ順番が回ってきて、深月は恐る恐る蜜璃の前に腰を下ろす。

「お、お手柔らかに……」
「深月ちゃんなら大丈夫よ!煉獄さんの後継だし!」

励ましてくれるのは嬉しいが、その根拠のようで全く理由になってない内容に、深月は思わず苦笑する。

そして覚悟もできていないまま、蜜璃による解しが始まった。

深月も体の造りは女性なので、他の隊士よりかは柔らかい方だと自負している。
ただ、蜜璃は呼吸の特性上、さらに柔軟な体を持っているので、彼女に合わせようとすればそれはまあまあ地獄で。

(いたいー!!)

深月は悲鳴こそ上げなかったが、あまりの痛みに顔を歪める。

蜜璃の解しは確かに痛い──が、それだけではなく、下腹部や股関節を中心に走る痛みに、深月は杏寿郎を恨めしく思う。

彼に散々抱かれたせいで、普段は痛めないようなところを痛めている。

「深月ちゃん、もう少しよ!頑張って!」

蜜璃に明るく声を掛けられ、深月はなんとか笑顔を作る。冷や汗が少々出るが、これはどうしようもないので放っておく。

どうにかこうにか人体の限界を超える柔軟を終え、深月は解放された。
痛む股関節を押さえたいが、人前なので我慢し、のろのろと立ち上がる。

そこで、蜜璃の鎹烏が来客を知らせに来た。
それを聞いて、蜜璃は「おやつにしましょう!」と隊士達に休憩を与える。

来客が誰なのか、深月と蜜璃にはわかっていた。

「邪魔をする!甘露寺、久しいな!」

杏寿郎が、深月の稽古中に息子を御披露目に来たのだ。本当はもっと早く来る予定だったが、出掛ける直前に息子がぐずったため、到着が遅れたのだ。

「煉獄さん、お久しぶりです!」

蜜璃はぱあっと嬉しそうに頬を紅潮させる。
彼女にとって、杏寿郎はいつまでも『かっこいいお兄様』なのだ。

杏寿郎は早速、蜜璃に息子を抱かせ、彼女の頭を撫でる。彼にとっても、蜜璃はいつまでも『可愛い後輩』だ。

蜜璃は杏寿郎達の息子を抱き、杏寿郎に頭を撫でられながら、ぽろぽろと涙を溢す。

「蜜璃ちゃん!?どうしたの?」

急に泣き出す蜜璃に、深月は慌てて駆け寄る。
杏寿郎は驚いて腕を引っ込め、懐を探って手拭いを取り出す。

その手拭いを深月が受け取り、蜜璃の涙を拭く。
それでも、彼女の涙は次から次に溢れ、なかなか止まってくれない。

蜜璃の目からは涙が溢れているが、彼女の口角はへにゃっと笑っていた。

「ほんとうに、おめでとうございます……よかった。お二人がしあわせで……」

ぽつぽつと呟くように言って、蜜璃は杏寿郎達の息子をぎゅっと抱き締める。
憧れのお兄様と大好きな姉弟子の子供は、父親にも母親にもよく似ていて、自分の子供じゃないのにとても愛おしくて、その子の幸せを願わずにはいられなかった。

杏寿郎と深月はきょとんとして顔を見合わせた後、同時にふっと笑って、蜜璃を撫でたり抱き締めたりする。

「ありがとう、甘露寺!」
「蜜璃ちゃんの気持ち、すごく嬉しい」

二人の優しい声音に蜜璃の涙は勢いを増し、稽古の再開まではかなり時間が掛かった。





 




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