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生存if 弐  五二


「深月、竈門少年達にもこの子を見せに行かないか?」
「え、炭治郎君達ですか……?」

杏寿郎の提案に、深月は首を傾げた。

炭治郎達と言えば、無限列車にて任務を共にした少年三人と禰豆子のことだろうが、彼らに息子を見せるべきかは考えたことがなかったのだ。

しかし、改めて考えて見ると、あの夜の任務で杏寿郎の大怪我を目の当たりにした少年達は、杏寿郎のことを心配しているだろうし、元気で幸せな姿を見せるのはいいかもしれない。
特に、炭治郎は杏寿郎が昏睡状態の間も何かと気に掛けてくれて、今では千寿郎とも文通友達だ。

「君の出産のことは知ってるだろう。千寿郎が伝えたはずだ! 聞けば、竈門少年も怪我が治って、柱稽古に参加するらしい」

そういえば、そのようなことを冨岡が言っていたような、と深月は先日の水柱邸でのことを思い返す。
冨岡と炭治郎は兄弟弟子で、早食い競争をしたとかなんとか。

深月は微笑んで、小さく頷く。

「じゃあ、せっかくですから、見せに行きますかねえ。稽古にお邪魔するのは申し訳ないですけど……」
「皆、休憩時間ぐらい取るだろう! 気のいい人ばかりだから、少しくらい大丈夫だ!」

それはどうだろうか。特に伊黒や不死川の稽古など地獄のようだったが、と深月は苦笑いで返した。


*****


それから、鎹烏を通じてまず炭治郎達の近況を尋ねたところ、善逸は不死川のところだった。炭治郎ももうすぐ不死川の稽古に参加するとのことだ。
伊之助は先に進んでいて、悲鳴嶼のところだったので、さすがに山奥は諦めるか、ということになった。

深月にとっては、不死川が一番厳しかったので気乗りしなかったが、彼に炭治郎達と会う許可を求めたところ、それは意外にもあっさり通った。

「ほら、大丈夫だっただろう?」
「ほんとですね……」

杏寿郎が得意気に笑い、深月はぽかんとする。

確かに、不死川は息子には優しかった。杏寿郎と話しているときも、普段より穏やかに見えた。

しかし、稽古中、深月に当たりが強かったのは事実だし、いつぞやの柱合会議での炭治郎と禰豆子への所業を思えば、こんなにあっさり許可が降りたことが信じられなかった。

まあでも、許可が降りたのは事実なので、炭治郎が風柱邸に着く頃を目安に、彼らに会いに行こう、という話で落ち着いた。


*****


杏寿郎と深月が息子を連れ、炭治郎達に会い来て、初めに聞いたのは激しい物音だった。

次に、言い争うような声も聞こえてきて、二人は顔を見合わせてから、悪いと思いつつも、無断で風柱邸の門をくぐる。

声が聞こえる方──庭に向かうと、吹き飛ばされた障子があって、その上に炭治郎と玄弥、縁側付近に不死川が居た。

不死川は一歩進んだかと思うと、一瞬で炭治郎との距離を詰め、彼の腹を殴り上げる。

その光景に、柱合会議で自分が受けた仕打ちを思い出し、深月は小さく悲鳴を上げた。

しかし、炭治郎は不死川の拳を受け止めていて、浮いている身体を捻って、不死川の首に蹴りを入れる。

不死川は思わず首を押さえて屈み、炭治郎は背中からは地面に落ちる。

話を聞くに、どうやら炭治郎が玄弥を逃がそうとしていて、不死川は相当怒っているらしい。

何がどうなってこんなことになっているのかわからないが、様子を見ている場合ではない、と深月は駆け出す。

「あ、杏寿郎さんは、離れていてくださいね!」

途中、振り返り、杏寿郎に指示を出す。
今日は、彼が息子を抱えているので、近くに居られたらたまったものではない。

杏寿郎は近くの隊士に息子を預けようとして、すぐに思い止まった。

自分にはおそらく、彼らを止める力はもうない。
一般人よりは強靭だろうが、柱相手にどうこうできる実力は、怪我の後遺症で失ってしまった。
深月を手助けするどころか、心配させて足を引っ張るだけだろう。

仲間相手とはいえ、危険に向かっていく深月の代わりになれないことが悔しくて、杏寿郎は誰にもわからないように歯を食いしばった。

深月はというと、とりあえず不死川を止めようと、彼の正面に立ちはだかる。

「何があったかわかりませんけど、落ち着いてください!」
「退けェ!」

不死川がそんなことで止まる訳はなく、彼は深月の肩を掴んで、押し退けようとする。

「退きません!」

深月は負けじと不死川の腕を掴み、自分の方へ引き寄せ、彼の隊服にしがみついて、どうにか止めようとする。

退いたら、修行のせいか、ただでさえぼろぼろの炭治郎がぼこぼこにされてしまう。
理由は全くわからないが、柱が部下や後輩、それも年下を一方的に痛めつけるなど、見過ごすことなどできない。

しかし、やはり不死川を止めるには、深月の膂力では到底足りなくて、不死川は空いている腕で炭治郎を殴る。

他の隊士が止めに入っても、炭治郎が距離を置こうとしても、不死川を中心とした乱闘は数時間続いた。





 




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