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第四章  二


鬼を斬り、日輪刀を鞘に納める。
今日はもう終わりかな、と深月が考えていると、急に鎹烏が大声で指令を告げた。

那田蜘蛛山へ向かえ、と。

どうやら、すぐに増援が必要なほど、逼迫した状態らしい。

深月は今、那田蜘蛛山からほど近い町に居る。
現場に急行しつつ、今日は帰れないかもしれない、と家に居る槇寿郎や千寿郎のことを考えた。

深月が山に入ろうとすると、とても嫌な感じがした。
鬼は複数いるだろうし、その中にとても強い鬼がいるのだろう。

深月は山の手前で一旦止まり、深呼吸をする。
そして、左手で鞘を握り締め、改めて山へ入る。

山の中は、悲惨だった。

仲間の死体が大量にあり、どの死体も四肢や首が変な方向を向いていた。
彼らの体から糸が伸びていて、人間を操るような血鬼術を使う鬼がいたのだと察する深月。

ひどい死に方をしている仲間達に心の中で手を合わせながら、深月はより不快な気配がする方へと向かう。

途中、遭遇した雑魚鬼を斬り伏せつつ、一番不快な気配がする場所へとたどり着いたとき、少年隊士が今にも鬼に殺されそうになっていて、深月は瞬時に力強く地面を踏み込む。

しかし、その足は踏み込んだだけで進まなかった。

直前まで水の呼吸を使っていた少年が、別の呼吸法を使ったからだ。
炎の呼吸とは違う。しかし、燃えるような、美しい弧を描く強烈な斬撃。

深月は手助けするのも忘れ、一瞬その剣技に見入ってしまうが、少年は良くて相討ちになると気付く。

しかし、鬼の血鬼術らしき糸は焼き切れた。
同じ糸で痛々しく拘束されていた少女が拳を握り締めた瞬間、彼女の滴る血が燃えたのだ。

少年の折れた刀が、鬼の首を捕らえる。
その瞬間、その刀も爆ぜて、鬼の首が飛んだ。

深月は困惑する。
拘束されていた少女は、明らかに鬼の気配をさせている。血が燃えたのも、血鬼術の一種だろう。
てっきり仲間割れでもしているのだろうと思っていたので、少年に味方している意味がわからなかった。

彼らはどういう関係なのか。
少年は本当に隊士なのか。
彼らを手助けするべきなのか。

それは、正しいことなのだろうか。

困惑して、悩んで、刀はちゃんと構えているのに、深月の足は根が生えたかのように動かなくなってしまった。

気付けば、首を斬られたはずの鬼は普通に喋りながら自分の首と胴体をくっつけていた。
そして、篭状に編んだ糸で少年を覆う。その糸の篭は、どんどん狭く小さくなっていく。

あれがただの糸であるはずがない。きっと、このままでは少年が殺されてしまう。

少年は紛うことなき人間だ。彼を見殺しにするわけにはいかない。鬼も斬らねばならない。

深月は今度こそ足を踏み出したが、それはもう遅かった。

どこからか別の隊士が現れ、少年を覆っていた篭を切る。
そして、あっという間に鬼の首を落としてしまった。

面識は無いが、深月はその隊士を知っていた。
現在の水柱、冨岡義勇だ。杏寿郎から聞いていた通り羽織が特徴的で、あれほど強い水の呼吸を使うのであれば、まず間違いないだろう。

深月は、庇うように鬼の少女に覆い被さっている少年隊士の元へ駆け寄る。

その際、胴体だけになり、ようやく体が崩れ始めた鬼が、少年へと手を伸ばしながら近寄ってきた。
深月は一瞬刀を構えるが、その鬼はもう何も出来ないと察し、少年に声を掛ける。

「大丈夫!?早く手当てを!」

しかし、少年は自分の目の前で倒れ、崩れていく鬼を見ながら目に涙を溜めている。
ほとんど動かないであろうその腕で、鬼の背中に優しく触れる。

そのまま鬼は崩れ、後には着物だけが残った。

この少年は、とても優しい心の持ち主なのだろう、と深月は思った。鬼にまで同情するほど、優しい子なのだ、と。

だから、鬼の少女も庇っているのだろうか。
深月が少年に尋ねようとしたところ、冨岡が鬼の着物を踏みつけにした。

そして、少年に向かって「人を喰った鬼に情けをかけるな」と諭す。

それには、深月も同意見だった。
この化け物に優しくして、一体何になるのかと思った。

しかし、少年は違った。
恐れ多くも水柱に向かって、足をどけてくれと言う。

「醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」

そう言いながら、険しい顔で冨岡を見上げる少年。
それを見て、冨岡は何かを思い出したような顔になり、何かを言いかける。

そこで、冨岡と深月はこちらに向かってくる気配に気が付く。

深月は少年を避難させようと彼の襟を掴むが、冨岡に頭を押さえ込まれ、地面に押し付けられる。
少年は、鬼の少女をさらに庇うように抱き締める。

深月と少年の頭上で、刀同士がぶつかる甲高い音が響く。

とんでもない速度で向かってきたしのぶが鬼の少女を斬ろうとし、それを冨岡が防いだのだ。

鬼殺を邪魔されたしのぶは、着地後も改めて刀を構える。

「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに何なんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

そう言うしのぶが怒っているように見え、深月は地面に転がりながら、血も凍るような恐ろしさを感じた。





 




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