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第四章 四
隠が集まってきたので、深月は彼らに日輪刀を渡す。
拘束が必要だろうと腕を差し出すが、隠は首を横に振った。どうやら、深月を拘束するつもりはないらしい。
立派な隊律違反を犯した自分がその扱いで大丈夫なのか、と深月は不安になった。
しかし、拘束しないのは隠なりの気遣いなのだろう。
逃げるつもりは毛頭ないので大人しくしておくか、と小さく溜め息を吐く。
それから、鬼殺隊本部──産屋敷邸に連行された。
本部に着くと庭に通され、深月は地面に正座する。
炭治郎はその辺に転がされ、気を失っているので倒れこんでしまう。
血だらけで汗をかいている炭治郎が可哀想に思えて、深月は懐から手拭いを取り出し、彼の汗を拭ってやる。
隊律違反までやらかしたのに、彼ら兄妹を逃がすことはできなかった。
これから兄妹は、自分は、どうなるのだろうと考えていると、ふと視界が暗くなった。
深月はパッと顔を上げ、しかしすぐに俯いて
嘔吐いた。
顔を上げた先には柱が数名居て、明らかに怒っている杏寿郎と目が合ったからだ。
しのぶの視線を背中に感じただけで吐き気を催していたのだ。ばっちり目が合ってしまっては、あまりの重圧に吐き気が止まらない。
実際に戻さなかっただけでも誉めてほしい、と考えつつ、深月は口を抑える。
杏寿郎はいつもの笑顔だが額に青筋を浮かべ、深月の顎を掴み上を向かせる。
「人の顔を見るなり失礼だな!」
「す、すみませ……おえっ……後生ですから離してください……」
また目が合った上に話し掛けられ、深月は再度嘔吐く。
おそらく、杏寿郎は分かっててやっている。
どんどん増していく吐き気を我慢し続け、深月が目いっぱいに涙を浮かべたところで、杏寿郎は彼女を解放した。
目を合わさなくてよくなり、深月は少し安心して俯く。
しかし、杏寿郎に羽織やら隊服やらをまさぐられ、深月は悲鳴を上げ、脊髄反射で謝る。
「きゃあああ!すみません!すみません!」
「少しじっとしていろ!甘露寺、手伝ってくれ!」
杏寿郎が振り向くと、蜜璃は少し悩んでから了承し、頬を赤らめながら彼と一緒に深月の衣服をまさぐる。
深月は首や耳まで真っ赤にして、勘弁してほしいと叫び続けるが、杏寿郎も蜜璃も手を止めない。
事情が分からない柱や隠は何をやっているのかと首を傾げたが、その答えはすぐに分かった。
深月から離れた杏寿郎と蜜璃の手に、数々の武器が握られていたからだ。彼らはそれらを隠に預ける。
深月は散々衣服をまさぐられた結果、半ば蹲って、息を切らしていた。
彼女は普段から、羽織や隊服に小さい暗器を仕込んでいる。もちろん、動作に支障が出ない程度の重量を。
これらの武器は、人間相手にも使える。
本部に連行された彼女を、暗器とはいえ武器を持った状態にしておくべきではないと、杏寿郎も蜜璃も判断したのだ。
「日輪刀以外も隠に預けなければ駄目だろう!」
「も、もうしわけ、ござ、いませ……」
深月は整わない息で、何とか謝罪をする。
さすがに本部で暴れるつもりはなかったが、まさか人前で衣服をまさぐられるとも思っていなかった。
普段だったら全力で抵抗して杏寿郎と喧嘩になるところだが、状況が状況だけに、深月は大人しく息を整える。
そして、杏寿郎は隠に深月の腕を後ろ手で縛り上げるように指示する。
隠は深月を少し見つめた後、恐る恐る杏寿郎に尋ねる。
「よろしいのですか……?」
「構わん!きつくしてくれ!」
杏寿郎の容赦ない指示を受け、隠は申し訳なさそうに、深月の腕を後ろ手に縛り上げた。縄の量は炭治郎の倍で、できるだけきつく。
深月はやはり大人しく、されるがままになっていた。
その間に、別の隠が炭治郎を必死に起こしていた。
最終的に怒鳴るように叫んだところで、漸く炭治郎が目を覚ます。
炭治郎は柱や周りを見回しながら、とても困惑した顔になる。
そんな彼に、しのぶが普段通り、優しい声音で声を掛ける。
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君。あ、もちろん深月さんもですよ」
やはり自分もか、と深月が考えていると、しのぶに続いて杏寿郎が「裁判の必要などないだろう」と大きな声で言い放つ。
「この少年は鬼もろとも斬首する!深月については、俺が責任を持って処罰を与えよう!」
その後、宇髄が炭治郎の頸を派手に斬ってやると言い出し、悲鳴嶼が炭治郎を憐れんで涙を流す。
蜜璃だけが二人の処罰について疑問を持ち、時透は会話に参加せず雲を眺めている。
最終的に、悲鳴嶼、杏寿郎、宇髄の三人が、炭治郎を殺すということで納得する。
その結論に、まるで自分の弟妹が殺されるかのような気分になった深月は、炭治郎を庇うように彼の前に移動し、つい叫んでしまう。
「待ってください!」
それをすぐに、杏寿郎が制止する。
「深月。今、君は話せる立場ではないだろう!君も罰を受けるんだぞ!」
「分かってます!罰はちゃんと受けます!それでも、殺すのは待ってあげてください!」
譲る気配がない深月を見て、杏寿郎は眉間に皺を寄せて溜め息を吐く。
笑顔以外の表情を見せる杏寿郎を珍しく思い、柱の何人かは目を見開く。
まだ何か言おうとする深月の口を、杏寿郎は片手で塞いで、怒鳴るように言う。
「頼むから黙ってくれ!これ以上困らせてくれるな!」
「んん〜!」
「深月!言うことを聞きなさい!」
言うことを聞く気配が全く無い深月に業を煮やした杏寿郎は、彼女を引き寄せながら立ち上がって、小脇に抱えるようにして拘束し、改めて口を塞ぐ。
「俺の継子がすまない!帰ったら厳しく叱っておく!」
がっちり拘束され、深月が抵抗できなくなったところで、柱達の話し合いは再開された。
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