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第四章 五
柱達の話し合いは進み、炭治郎から話を聞くことになった。
彼が言うことには、妹の禰豆子は鬼になって以来、人を喰ったことがないとのこと。
しかし、それを信じる者は誰もいない。
それもそのはず、人を喰わない鬼など誰も見たことも聞いたこともないし、仮に禰豆子がそうだったとしても、証明ができない。
話し合いの途中で、蜜璃がずっと抱えていた疑問を口にする。
「お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか?深月ちゃんも何か知ってるみたいですし……いらっしゃるまでとりあえず待った方が……」
そこで蜜璃は、杏寿郎に拘束されたままの深月を見る。
深月は少し嬉しそうな目で蜜璃を見ており、その視線に蜜璃はキュンとする。
(深月ちゃんが私を頼ってるわ!かわいい!)
元は深月と姉妹弟子の関係である蜜璃。
さすがに、このまま深月の言い分も聞かずに処罰するのは忍びないと思ったらしく、杏寿郎に彼女を離すよう提案する。
杏寿郎は暫し悩んだ後、深月を解放する。
「大人しくしていなさい。これは命令だ」
彼女が離れる前に、そう耳元で囁いた。
これ以上何かやらかされたら、処罰どころか斬首まで話が発展してしまうかもしれない。
師範である自分が処罰を下せる程度に
止めておきたかった。
深月は一応頷いてから、柱達と距離を置く。
そうこうしている間に、不死川がどこで見つけたのか、禰豆子が入っている箱を持ってきて、日輪刀で箱ごと禰豆子を刺した。
箱から血が滴り、炭治郎は不死川に向かって駆け出す。
「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!」
「ハハハハ!!そうかい、よかったなァ」
不死川は炭治郎を馬鹿にするように笑い、それを見た深月の全身が怒りによって震える。
何故、誰も彼らの兄妹愛を見ようとも聞こうともしないのか。誰も、禰豆子が炭治郎を助けたところを見ていないじゃないか、と。
このままでは炭治郎が斬られる、と深月が思った瞬間、冨岡が横から口を挟み、調子が狂った不死川に炭治郎が頭突きをかました。
蜜璃だけが、堪らず吹き出していた。
炭治郎は禰豆子を庇うように箱の肩紐を掴み、不死川を睨み付ける。
一触即発かというところで、杏寿郎は深月の異変に気付く。
「深月!待て!」
慌てて声を掛けたが、既に遅かった。
やはり捕まえておけばよかった、とひどく後悔する。
深月は跳躍し、炭治郎を庇うように不死川の前に立ちはだかる。
傷だらけの炭治郎が死んだ弟と被って見えて、彼がこれ以上傷付くのは見たくないと思ってしまった。
不死川も、さすがに炎柱の継子に刀を向けるわけにはいかず、日輪刀を抜かずに拳を構える。
深月は縄を引きちぎり、その拳を受け止めた──が、威力は殺しきれず、腕ごと腹を殴り上げられる。
血反吐を吐き、咳き込み、それでも深月は不死川を睨み付けた。
「傷だらけの子供を虐めて楽しいですか?」
「あァ!?」
不死川は額に青筋を浮かべ、深月を投げ飛ばそうと彼女を持ち上げる。
そこで、杏寿郎が深月の襟首を掴んで引き寄せた。
彼女が暴れないよう腕を後ろに回させ、片手で拘束する。
空いている腕で口を塞ぎつつ、上半身を抑え込む。
「すまん、不死川!躾し直しておくので許してやってくれ!」
耳元で大声を出され、深月は脳が揺れるような感覚にふらつく。
多少ふらついたところで、杏寿郎に拘束されているので倒れることすらできないが、足に力が入らなくなり、杏寿郎にもたれ掛かってしまう。
これは彼の大声のせいではなく、不死川の拳による損傷のせいか、と気付くが、既に意識が朦朧とし始めていた。
不死川はぐっと黙りこむ。
普段から良くしてくれる杏寿郎に『許してやってくれ』と言われたら、これ以上深月を責めるのは気が引けた。
それに、深月は自分の拳で充分傷付いている。
だが、しかし。隊律違反に、柱への反抗的な態度。
柱としては、彼女の失態を許すわけにはいかなかった。
不死川が何か言おうと口を開いたと同時に、少女の声が庭に響いた。
「お館様のお成りです!」
*****
深月は杏寿郎に腕を拘束されたまま、彼の隣で頭を垂れていた。
庭に面する部屋に、鬼殺隊当主とその息女が居るからだ。
先程の損傷によって震える足で正座し、ひたすら地面を見つめる。
視界の端で禰豆子が箱ごと刺され、炭治郎が無理に押さえつけられているのが見えた。
助けてあげたいのに体が思うように動かなくて、深月は唇を噛み締めた。
当主──耀哉と柱達の話し合いにより、炭治郎は鬼舞辻󠄀無惨と遭遇したことがあるとわかり、禰豆子が人を喰わないことも証明された。
その結果、炭治郎と禰豆子の存在は認められ、深月は朦朧とする意識の中、安心して目を伏せる。
しかし、帰宅後には杏寿郎の説教が待っていることを思い出し、忘れていた吐き気を催しながら、意識を失った。
杏寿郎は深月が気絶したことに気付いたが、耀哉や柱達の前ということもあり、介抱できずにいた。
それに気付いた耀哉が、優しい声音で杏寿郎に話し掛ける。
「杏寿郎。柱合会議の前に、深月を隠達に診てもらおうか」
心配だろう、と微笑む耀哉の言葉に、杏寿郎は甘えることにした。
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