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第四章  六


深月は目を覚まし、周囲を見回し、首を傾げた。
ここはどこだろう。自分は何をしているのだろう、と。

知らない部屋で布団に寝かされていて、部屋も布団も高価そうで、深月はいそいそと布団から出る。

ぼうっとする頭で立ち上がった瞬間、腹部の痛みに蹲った。そして、今までの出来事を思い出した。

「帰ったら杏寿郎さんに怒られる……!」

畳の上で頭を抱え、やだやだと首を振る。

そこで、障子が開かれた。

「雨宮さん、目が覚めたんですね!よかったです……あれ?どうされました?」

障子を開けたのは隠で、畳の上で頭を抱えている深月に困惑する。

深月は何でもないと答えながら起き上がり、隠に礼を言って頭を下げた。
おそらく、隠が腹の傷を診てくれたのだろう、と。

隠は笑顔で答えた後、気まずそうに柱達からの伝言を深月に伝える。

「柱合会議の後、話があるそうです……」

深月は顔を青ざめさせ、治まっていた吐き気を催し、また蹲る。

できれば逃げたかったが、余計なことをすれば隠に迷惑が掛かるので止めておいた。

しばらく待っていると、少女が呼びに来た。耀哉の息女だ。

「皆様がお呼びです。こちらへどうぞ。拘束は不要だと、お館様が仰せでした」


*****


案内された先の部屋の前で、深月は身震いする。
気配から察するに、柱はもちろんのこと、耀哉も未だ部屋の中にいる。

炭治郎と禰豆子の存在が認められた今、さすがに殺されることはないだろうと高を括っていたが、もしかしたら、不死川あたりに即刻首を跳ねられるかもしれない。

深月が恐る恐る襖を開けると、急に押し倒された。

これでもかと言うほど背中と後頭部を強打し、息が詰まる。
それだけでなく、深月の首は押し倒してきた人物の片手によって絞められている。ぎりぎり呼吸ができるかどうかの強さだ。
その人物──不死川は、深月の腹の上に跨がり、体重をかけ、彼女が動けないように押さえ付けてもいた。

まだ痛む腹に体重を掛けられ、深月は眉をしかめる。

「テメェ……よくも面を出せたもんだなァ」

上から降ってくる声に、呼び出したのはそっちじゃないか、と深月は思う。
それをそのまま口にしようとして、自分が呼吸できていないことに気付く。

こんなことは久しぶりだった。きっと、首を絞められているせいだろう。

家族を惨殺された夜の、末の弟の死に様を思い出す。
鬼に首をへし折られ、頭から食べられた弟。
その光景が、耳を塞ぎたくなるような音が、鮮明に思い出される。

最近は、惨劇の夜を思い出しても呼吸困難にならなかったのに、首を絞められるだけで肺が言うことを聞かなくなる。

うまく酸素を取り込めず、深月は隊服の胸元を強く握り締める。そのせいで、隊服に深い皺が刻まれる。

不死川が深月の異変に気付き、力を緩めようとしたところ、彼の腕が誰かに掴まれた。
不死川はその誰かを確認する。案の定、杏寿郎だった。

「離せ……!」

今にも不死川の腕を折らんばかりに、力を込める杏寿郎。
不死川は深月の首から手を離し、彼女の上から退く。それと同時に、深月は横向きに転がり、大きく咳き込んだ。杏寿郎はすぐさま不死川から手を離し、深月の背中をさすってやる。

「不死川さん、やりすぎです」
「俺はそこまで力を入れてねぇ。この女が勝手に苦しみ始めただけだ」

しのぶに責められ、不死川はばつが悪そうに答えながら、元々座っていた場所へ戻る。

杏寿郎は、起き上がる深月を抱き寄せながら、安心させるように背中を優しく撫でる。
杏寿郎の腕の中に収まった深月は、荒く呼吸しながら、すがるように杏寿郎の隊服を掴む。

「大丈夫だ、深月。ゆっくり息を吸いなさい」

深月の呼吸が整う間、杏寿郎は不死川に事情を説明した。彼女の家族が惨殺された夜の、弟の死に様について。

その事情を知っていたしのぶも付け加える。

「彼女が隊服の襟を開けているのは、首に何かが触れると心的苦痛により呼吸がままならなくなるからです。事情を御存知なかったとはいえ、不死川さんはやりすぎたんです」

不死川は小さく舌打ちする。

その頃には、深月の呼吸は落ち着いていた。杏寿郎の隊服を離し、彼の胸を両手で押す。

「もう大丈夫ですから……」

醜態を晒したことにより、深月の顔は少し赤くなっていた。

しかし、杏寿郎が心配そうに見下ろしてきて、全く離してくれないので、深月は再度彼の胸を押した。

「杏寿郎さん、あの、もう大丈夫です」
「むう……」
「いや、『むう』じゃなくて、離してください。皆様の視線が痛いです」

柱達に凝視され、深月の顔はさらに赤くなっていく。
心配してくれてのこととはいえ、男性の腕の中にいつまでも収まっているのは恥ずかしい。それが、柱達の前であれば尚更だ。

「しかし、離せばまた不死川が襲ってくるかもしれん!」
「んなことしねぇわ!」
「ほら、風柱様もああ仰ってることですし」

杏寿郎は渋々といった体で、深月から離れて、柱達の元へ戻る。

深月は居住まいを正して、頭を下げる。

「お見苦しいところを……大変失礼いたしました」
「顔を上げてごらん。深月」

心地好い声音に、深月はゆっくりと顔を上げる。
その声は、耀哉のものだった。





 




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