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第一章  四


目を覚ましてから二週間程経った頃、深月の怪我は完治した。完治したと言っても、背中に大きく残った傷跡は一生消えないだろう。

深月は相変わらず、毎日のように窓の外を眺めるだけの日々を過ごしていた。その静かな日々が、杏寿郎の声によって騒がしくなるのは、本日で三度目だ。

「雨宮!完治したと聞いたぞ!おめでとう!」
「前も傷が残ったって言ったのに何が『おめでとう』なのよ。というか暇なんですか?」
「暇ではない!今は近くの任務が多いだけで、夜はちゃんと働いている!」

杏寿郎は、四、五日に一回程の頻度で、深月の見舞いに来ていた。深月は会う度突っ掛かるが、杏寿郎は深月の悪態や嫌味を物ともしない。

それをたまたま見掛けた隠の女性は、若干引いた顔をして、見なかったことにして足早にその場を去っていく。
何故なら、彼女は前回の見舞いにも遭遇していて、その際、杏寿郎の悪意無き言葉に怒った深月が点滴を振り回し、駆け付けたしのぶに「早く止めるように」と説教されたからだ。まあまあのとばっちりである。

杏寿郎は、深月が点滴をしていないことに気付く。

「点滴はしていないのだな!」
「食事出来るようになってきたし……前回振り回して怒られたから」
「そうか!食事が出来るのか!元気になってきた証拠だ!点滴を振り回していた時点で元気になったとは思っていたが!」
「ねえ、喧嘩売ってるわけじゃないんですよね?貴方は素でそういう感じなんですよね?」

深月が額に青筋を浮かべながら問うと、煉󠄁獄は「喧嘩など売らん!」と答える。

会うのはまだ三度目だが、深月も少し煉󠄁獄杏寿郎という男が分かってきた。彼の言葉に悪意など全く無く、純粋に深月を心配しての発言なのだ。ただ、それが嫌味に聞こえることを、杏寿郎本人は理解していない。

「今後、どうするか考えているか?」

杏寿郎がそう尋ねると、深月は杏寿郎の目をじっと見つめる。

「貴方の家、鬼狩りの一族でしたよね?」
「ああ!父は柱だ!」
「私にも鬼狩りを教えて」
「それは出来ない!」
「じゃあ、育手とやらを紹介して」
「それも無理だ!」

二回もキッパリと断られ、深月は重いため息を吐く。

この数日の間、深月は胡蝶姉妹や隠から、あの夜起こったことについて説明を受けていたのだ。

人食い鬼が存在すること。
鬼が末の弟を指して言った稀血のこと。
鬼殺隊という組織のこと。

その過程で、育手や煉󠄁獄家のことも聞いた。

(カナエさん達にも断られたし……)

自分の家族を奪った鬼は、あの夜に杏寿郎達が倒してしまったため、直接の復讐は叶わない。
だからせめて、他の鬼を殺すことで心を埋めようとしたのだが、カナエからもしのぶからも見透かしたような瞳で断られたのだ。ならば杏寿郎は、と思ったのだが、玉砕した次第である。

「どうして……」
「君は、普通の幸せを手に入れる方がいいと思う」

杏寿郎の言葉に、深月は激昂する。

「だから!この傷じゃ普通の幸せは無理なの!それに家族を殺されて、幸せになれるわけないじゃない!貴方は家族を鬼に殺されたことないんでしょう!?私の気持ちなんかわからないわよ!」
「だが、君は……」
「出てって!」
「雨宮!俺は……」
「出てってってば!」

深月は枕を掴み、杏寿郎に向かって投げる。しかし、それは簡単に避けられてしまい、悔しくてさらに怒りが込み上げる。

「嫌い!最初から嫌いだった!もう来ないで!」

子供みたいなことを叫んで、深月は布団を頭から被ってしまう。

杏寿郎は申し訳なさそうな顔で枕を拾い、軽く汚れを払ってから深月の寝台に置く。

「また来る」

力無く言って、病室を後にした。







 




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