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第三章  七


先日、お喋りの途中で蜜璃が見せた悲しそうな顔。
それが気になって、深月は庭で稽古中の蜜璃を縁側から眺める。

彼女は杏寿郎から稽古をつけてもらって、楽しそうにしている。

深月も最初こそ、その光景に少し嫉妬したが、今は蜜璃の可愛さの方が勝ってあまり気にならなくなっていた。

──とはいえ、不安は残っている。

蜜璃は可愛くて明るい女の子だ。我儘も文句も言わない。

一方、深月は自分の容姿に自信がない。その上、体は傷跡だらけだし、実力で杏寿郎に劣るのに、我儘も文句も一丁前に言う。

自分はなんて可愛くないんだ、と深月は溜め息を吐く。
いつか愛想を尽かされるかもしれない。
それでなくとも、杏寿郎の周りには、素敵な女性が何人もいる。

蜜璃はもちろん、しのぶだって美人で優秀だし、蝶屋敷の少女達だって今は子供だがきっと美人に育つだろう。
任務で助けた女性に言い寄られている場面も何度か見た。

何も、自分でなくたっていいじゃないか。
深月は二度目の溜め息を吐く。それは、先程よりも幾分か重くなっていた。

しかし、杏寿郎は責任感が強いから、深月に愛想を尽かしたとしても、きっと煉獄家には置いてくれる。身寄りがない深月をその辺に放り出したりはしない。

そうなったら一層惨めだ。

三度目の溜め息を吐き、深月は縁側に寝っ転がった。
すると、鎹烏が側に降り立って、心配そうに頬擦りをしてくる。
その頭を撫で、深月は「なんでもないよ」と言いながら笑顔を浮かべる。

いろいろ考えた上に、昼寝をするには持ってこいの暖かさで、深月はうとうとし始める。

眠気と戦いながら、そういえば今朝数ヶ月ぶりに月のものが来たなあ、などと考える。

そこで、ふっと視界が暗くなって、首だけで上を向くと、呆れたような顔の杏寿郎と目が合った。
今しがた、負の思考回路に捕らわれていたばかりなので、その表情は深月にとってきついものがあった。

杏寿郎は呆れたような顔のまま、自分の羽織を脱いで深月の下半身に掛ける。

「はしたないだろう。それに、そんなとこで寝たら風邪を引く」

深月は今日、隊服を身に纏っている。しかも、縁側に腰掛けたまま後ろに倒れるように寝転がっていたので、スカートの中が庭に居た杏寿郎と蜜璃から見えそうだったのだろう。

こういうとこも駄目だなあ、と落ち込みつつ、深月は杏寿郎に謝罪する。
そして、ゆるゆると起き上がり、杏寿郎の羽織を掛けたまま、自分の膝を抱える。
そこに顔を埋めれば、羽織から杏寿郎のにおいがして安心する。鎹烏も寄り添ってくるし、陽射しも暖かく、深月はまたすぐにうとうとし始める。

「深月、こんなとこで寝るんじゃない!起きろ!」

杏寿郎の叱る声が聞こえたが、睡魔には勝てない。
夜には任務があるし、仮眠をとるくらいいいだろうと思いつつ、目を閉じる深月。

「師範。深月ちゃん、どうかしたんですか?」
「眠ってしまいそうだ!全く起きん!」

蜜璃の声も増えて、深月は最初に考えていたことを思い出す。

途中で思考は脱線してしまっていたが、先日の蜜璃の悲しい顔が気になっていたのだ、と。
でも、彼女が何か事情を抱えていたらと思うと、それを不躾に聞くのは憚られた。
しかし同時に、事情があるのなら彼女の力になれないだろうか、とも思った。

せっかく妹弟子が出来たのだから、何か姉弟子らしいことはできないだろうか。

そんなことを考えつつも、眠気は段々強くなって、こんなところで寝たらまた呆れられてしまう、と深月はなんとか顔を上げた。

しかし、もう半分夢を見ているような状態になり、深月の表情はとろんとしている。

その表情に、杏寿郎は息を詰まらせ、蜜璃は赤面する。

杏寿郎はすぐに平静を装い、深月に声を掛ける。

「布団に行くか?」
「んー。でも敷いてないので……」
「布団くらい敷いてやるから」

杏寿郎がそう言うと、深月は杏寿郎に向かって両腕を伸ばした。

既に寝惚けていて、今も夢の中のつもりなのだろう。
思いっきり甘えてくる手に、杏寿郎はふっと笑った。

「仕方がないな。起きた後、文句を言うんじゃないぞ」

杏寿郎は深月の腕を自分の首に回させ、彼女を抱き上げる。

「すまん、甘露寺!少し休憩していてくれ!」
「は、はいっ!」

二人の行動に、蜜璃は顔を真っ赤にしながら、なんとか返事をする。

深月を抱えて行く杏寿郎の背中を見送った後、蜜璃はほうっと小さく息を吐いた。

「師範って、本当に深月ちゃんのことが好きなのね」

杏寿郎の、深月を見る眼差しや彼女を抱え上げる手付きの優しさ。なんだかんだ言いながら深月を甘やかして微笑む顔。

それら全て、深月のためだけのものだった。

ただ一人の男性にあれだけ想われたら、どんなに幸せだろうか。

『君と結婚できるのなんて熊か猪か牛くらいでしょう』

ふと、いつぞやのお見合い相手に言われた言葉を思い出して、蜜璃は俯く。

深月にとっての杏寿郎のような誰かと、いつか出会うことができるだろうか。

そう考えると、なんだか怖くなって、その考えを払うように蜜璃はぶんぶんと首を振った。





 




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