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第三章 八
深月を彼女の私室まで運んできた杏寿郎は、まず彼女を畳に寝かせ、羽織を掛けてやった。
それから布団を敷いて、再度深月を抱えて布団に寝かせる。
布団を掛ける前に羽織を取ろうとしたが、彼女が抱えるように羽織を掴んでいて取れなかった。
杏寿郎は困ったように笑う。
「それは俺の羽織だ。君の羽織は着ているだろう」
「うーん……」
深月は体を丸めて、杏寿郎の羽織を離そうとしない。
そもそも、隊服姿で寝ると苦しいだろうに。
ベルトも靴下吊りも締め付けるだろうし、暗器も仕込んだままだ。
まさか寝相によって、自分の暗器で怪我をするとは思えないが、できれば着替えた方がいいだろう。
杏寿郎は深月の肩を揺らす。
「深月。着替えよう。せめて、暗器だけでも出しなさい」
「ん、だいじょうぶです」
何が大丈夫なのだろうか。
杏寿郎は困ったように笑ったまま溜め息を一つ吐いて、躊躇いつつも深月のスカートに手を入れた。
小刀や暗器を仕込んでいるベルトを外し、靴下吊りも外してしまう。
靴下を脱がせ、隊服のベルトを緩め、彼女の服や羽織をまさぐって暗器を取り出す。
針や錐のような物から、別の小刀、くないに寸鉄まで。
忍か何かかと思えるその量に、杏寿郎は驚きを隠せなかった。
これだけ仕込んでいて、深月はなかなか素早く動ける。
大したものだ、と思いつつも、修行時代に比べ随分可愛げがなくなったものだ、とも思う。
彼女の工夫を否定するつもりはない。
鬼殺に可愛げなど必要ない。
しかし、蜜璃に稽古をつけていると、よく修行時代の深月のことを思い出す。
あの頃の深月は、とにかく杏寿郎の教えについてくることに必死で、その健気さが可愛くもあった。
今も別の意味で可愛いし、強くなって頼もしくなった。
「うかうかしてたら、追い付かれるな」
もし追い付かれたら……追い越されたら、男として情けなく、求婚どころではなくなってしまう。
ただでさえ、蜜璃の稽古が始まってから、機会を逃しているというのに。
杏寿郎はある程度暗器を取り出し、布団の横に並べる。
これくらいで大丈夫だろうか、と一息ついたとき、深月が寝返りをうった。
杏寿郎の羽織は片手に掴んだまま仰向けになり、隊服の下の襦袢が少しはだける。
そこに、また別の暗器が見え、杏寿郎は悩む。
これは取り出すべきだろうか、と。
さすがに心臓付近に隠しているのだから、ちょっとやそっとで出てくる造りではないだろう。
だが、万が一にも刃の部分が露出したら。それが深月に刺さったら。
そう思うと怖くなり、杏寿郎は深月の襦袢の合わせに手を伸ばす。
合わせを少しだけ開いて中に手を差し込めば、慣れた柔らかい感触の他に、暗器の硬い感触がした。
それは胸の下のベルトで固定されているようで、杏寿郎はさらに奥に手を入れる。
「んっ……」
可愛らしい反応を見せ、身を捩る深月。
杏寿郎はなんだか寝込みを襲っているような気分になり、急いでベルトごと暗器を取り出した。
それも布団の横に並べ、今度こそ深月に布団を掛ける。
何度か彼女の頭を撫で、額にそっと口付ける。
「その羽織もあげよう。おやすみ」
杏寿郎は音を立てずに深月の部屋を後にした。
*****
深月は小一時間程で目を覚ました。
数秒間、何があったのか思い出せなかったが、すぐに覚醒して飛び起きる。
陽射しが気持ちよくて寝てしまった。
久々の月経のせいもあるだろうか。
まだ外は明るいようで、深月は立ち上がろうとして、自分の体が軽いことに気付く。
ふと、横を見れば、仕込んでいたはずの暗器が並べてあり、深月は首を傾げる。
縁側で寝落ちする直前、杏寿郎が何か言っていた気がする。その後、なんだかとても心地好くて、気付けば布団で寝ていた。
恐らく、杏寿郎が部屋まで運んで、布団まで敷いて、寝かせてくれたのだろう。
隊服のベルトも緩んでいるし、寝やすいようにと暗器も彼が取り外してくれたのかもしれない。
その取り外された暗器の中には、太腿や胸などの際どい位置に取り付けていた物もあった。
よく見れば、靴下吊りも靴下も置いてある。
幸い、下履きは履いていたが、襦袢少しはだけている。
何てことだ。これら全て、杏寿郎が取り外したのか。
深月は火が出そうなくらい顔を赤くし、布団を抱き寄せる。
その際、自分が着ているのとは別に、杏寿郎の羽織を見つけて、拾い上げる。
何故、羽織がもう一枚あるのか。
数分後、その理由を杏寿郎に聞いたとき、深月は恥ずかしさで心臓が止まりそうになった。
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