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第三章  十二


四人で──というか、主に蜜璃がお菓子を完食した後、千寿郎と蜜璃はお膳を持って部屋を出て行ってしまった。
深月以外の食事の準備もしてくる、とのことだった。

そういえば自分だけ先に食事をしてしまった、と深月は落ち込む。

杏寿郎も蜜璃も腹を空かしていただろうし、槇寿郎を差し置いて食事など烏滸がましい。

そんな考えが顔に出ていたのか、杏寿郎は深月を抱き寄せ、安心させるように背中を優しく叩く。

「食事の順番など気にすることはない。それより、体調は大丈夫か?」
「は、はい」

杏寿郎の腕の中で、深月は頬を赤らめながら頷いた。

二人きりのときに突然優しく甘やかされるのには、何年経っても慣れずに心臓が高鳴る。

しかし、すぐに少し腕の力が緩んだ気がして、深月は杏寿郎を見上げる。
すると、杏寿郎が不意に額を合わせてきたので、深月は真っ赤になって硬直する。

「熱はないようだな」

確認するように言って、離れる杏寿郎。
その直後、深月の真っ赤な顔が見えて、からかうように笑う。

「全く。いつまで経っても慣れないんだな」
「だって、杏寿郎さんが……」

杏寿郎さんが格好良すぎるのが悪いんです、と言い掛けて、でもとても恥ずかしい発言な気がして、深月は何も言えなくなる。

いつまでも深月が続きを口にしないので、杏寿郎は微笑んで首を傾げる。

「ん?」
「なっ、なんでもないです」

その仕草にまた心臓がうるさくなって、深月は顔を背ける。
杏寿郎は「そうか」とだけ言う。深月が何を言おうとしていたかわかっているような口振りだった。

「体調不良の原因は、月のものか?」
「え、なんで知ってるんですか?」

杏寿郎の問いに驚き、深月は背けていた顔を戻す。
それから、しまったという顔をする。

真っ最中です、と暴露しているようなものではないか。
いくら杏寿郎相手とはいえ、はしたない。

深月は赤かった顔を真っ青にする。
それを見て、杏寿郎は申し訳なさそうに眉を下げる。

「脚に血が付いているのを見た。すまん」

湯殿では何の血かすぐにわからなかったが、蜜璃の反応を思い返せば、そういうことだったのだ、と杏寿郎は察していた。

血を見てしまったのも、蜜璃に気を使わせてしまったのも、悪かったと思っている。

申し訳なさそうな杏寿郎の表情を見ていると、自分まで辛くなり、深月はにっこりと笑う。

「そうでしたか。でも、謝らないでください。私のせいなので」
「深月のせいではないだろう!」

今まで下げていた眉を吊り上げ、杏寿郎は叱るように言った。

「月のものがあるのも、体調が悪いのも、深月のせいではない」

月のものがあるのは女性であれば当然だ。むしろ深月は不順なのだから、良いことだろう。
体調が悪いのも、自分ではどうしようもないことだ。
子を産む、という男には出来ない事をするためなのだから。
それが深月のせいであってたまるか、と杏寿郎は唇を噛み締める。

深月は少しの間きょとんとしていたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」

杏寿郎はまた深月を抱き寄せ、今度は強く抱き締める。

「今日は……いや、体調が戻るまで、任務は休みにしてもらおう。体調のことは父上にも話しておくから、家事も無理しなくていい」
「大丈夫ですよ。たくさん食べて寝たら治りますから」
「しかし!俺は、深月に……」

言い掛けて、杏寿郎は言葉に詰まる。
先程と立場が逆になり、深月は首を傾げる。

先程と違うのは、深月は杏寿郎の言いたいことが何か理解していない、という点だ。

しばらくして、杏寿郎は自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。そして、ゆっくりと口を開く。

「いや、なんでもない。とにかく、君はしばらく休め。いいな?」
「はい。杏寿郎さんがそこまで仰るなら」

結局、杏寿郎が何を言いたいかわからなかったが、深月は目を伏せて頷いた。


*****


深月の部屋を後にし、杏寿郎は彼女の鎹烏に事情を説明した。
鎹烏は力強く羽根を羽ばたかせ、深月の休みの許可を取りに行った。

それから、食事を終え、蜜璃に続きの稽古もつけ、任務に向かう。

任務前に、杏寿郎は深月に言い掛けた言葉を思い出す。
自分の意思で思い出すのはこれが初めてだが、深月の部屋を出てからずっと頭の片隅にはあった。

『俺は、深月に自分との子を産んでほしいから、無理をされては困る』

言わなくてよかった、と杏寿郎は安堵の溜め息を吐く。

求婚だってままならないどころか準備すらできていないのに、子を産んでほしいなど、話が飛びすぎだろう。

その夜、杏寿郎は自分の情けなさを吹き飛ばすように、任務に打ち込んだ。







 




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