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第三章 十六
槇寿郎の部屋から出た後、蜜璃を帰し、杏寿郎は着替えると言って自室に行ってしまった。
深月は杏寿郎を追い掛け、彼の着替えを手伝いながら、急にどうしたのかと事情を尋ねる。
そして、その返答に困惑した。
「えっ?杏寿郎さんが柱合会議に行かれるんですか?」
「うむ!」
なんと、槇寿郎の代わりに杏寿郎が柱合会議に行くことになったらしい。
だから、指令も来ていないのに、杏寿郎は急に隊服に着替え始めたのだ。
一抹の不安を覚え、深月の頬は少しひきつる。
出会った当初、杏寿郎の物言いには随分苛つかされた。
それは、深月の精神状態にも原因があったが、彼に全く問題がなかったかと言えばそうではない。
時たま会話が成立しないのだ。
もちろん、杏寿郎に悪気はない。残念ながら、嫌味やズレたことを言っている自覚もない。
深月はもう慣れたし、この数年で彼の言いたいことはなんとなくわかるようになったので、苛つくことはなくなった。
しかし、当主や柱は杏寿郎にとってほぼ初対面だ。面識があるのは、蟲柱になったしのぶくらいだろうか。
彼らがどういう性格なのかは知らないが、杏寿郎の言動はある意味失礼とも取られるのではないだろうか。
こういうことを考えるのも杏寿郎に対して失礼か。しかし、何か問題が起きたらどうしよう、と深月は頭を悩ませる。
その間に、杏寿郎の着替えは終わり、彼は柱合会議へと向かってしまった。
深月は、特に不安を口にすることなく、杏寿郎を見送った。
どうか何事も起こりませんように、と祈りながら。
*****
帰宅した杏寿郎に柱合会議の様子を聞いて、深月は何とも言えない顔になった。
杏寿郎によると、「柱が足りない」という話になったので、「自分が柱になるので問題ない」と言ったら、柱の一人に殴り掛かられた──いや、蹴り掛かられたとのことだった。
さすがに杏寿郎は殴り返さなかったらしいが、その後
何故か柱は大声で怒鳴っていたとのことだ。
深月は小さく溜め息を吐く。
会話の内容を詳しく聞けば、どう考えても杏寿郎のズレた言動が相手を苛つかせている。
だが、今それを指摘したところでどうしようもない。
深月は大人しく話の続きを聞くことにした。
どうやら、当主から直々に指令を頂いたようだ。
「帝都付近で十二鬼月である可能性の高い鬼の情報が入ったらしく、その討伐任務を任された!」
「十二鬼月ですか……」
柱になるための条件は、『鬼を五十体倒すこと』もしくは『十二鬼月を倒すこと』だ。
言葉ではなく、実績で柱になれることを示せ、という意味なのだろう。
それに、その鬼が出るという場所は、槇寿郎の担当地区だった。
「私もご一緒していいですか?」
深月は、つい尋ねてしまった。
自分には指令は来ていない。だが、槇寿郎に関わることとなれば、放っておけなかった。
まさか、十二鬼月の可能性がある鬼相手に一人で挑むわけもないだろう。
杏寿郎は一緒ぽかんとし、すぐに太陽のような笑顔を浮かべた。
「ああ、頼む!深月が居ると心強い!」
「ありがとうございます!」
深月も笑顔を浮かべ、早速任務の準備に取り掛かった。
*****
帝都東京。
その一角に、十名程の鬼殺隊士が集まっている。
その中には、杏寿郎や深月だけでなく、蜜璃の姿もあった。
今回の任務では階級の高い杏寿郎が纏め役となり、他の隊士に指示を出す。
基本的には二人一組で行動し、鬼を発見次第鎹烏にて連絡。最優先は市民の避難。
地図を片手に、杏寿郎は力強く指示を出し、それに他の隊士が応える。
そんな杏寿郎見て、蜜璃はうっとりと頬を染める。
(指示を出してる煉獄さんも素敵!羽織もお揃いで嬉しいわ!深月ちゃんもお揃いよね!)
深月は、蜜璃が杏寿郎に向けている熱い視線に気付くが、任務中なので気にしないようにする。
蜜璃が師である杏寿郎に憧れを抱くのは、別段おかしいことでもない。深月にとっても蜜璃は可愛い後輩なので、冷たく当たる気もない。
それでも、長く見ていたくなくて、他の隊士と行動を共にしよう、と深月は踵を返す。
その直後、腕を掴まれ、ずるずると引き摺られる。
「深月もこっちだ!よろしく頼む!」
腕を掴んだのは杏寿郎だった。
深月は彼の手を剥がそうと抵抗する。
「いや、配分悪いですって。杏寿郎さん甲、蜜璃ちゃん癸、私乙!おかしいでしょう!」
「おかしくはない!深月は怪我人の治療ができるだろう!もし怪我人が出た場合、近くに居てくれた方が指示を出しやすい!」
そう言って、杏寿郎は肩越しに深月を振り向く。
全幅の信頼を寄せてくるその目に負け、深月は杏寿郎と蜜璃に着いていくことにする。
抵抗しなくなった深月の腕を離し、杏寿郎は蜜璃に声を掛ける。
「任務を共にするのは初めてだな、甘露寺!期待しているぞ!」
「ひゃ……はい!」
「どうした!元気がないぞ!」
蜜璃は返事をするものの、どこか以前のような元気はなく、杏寿郎がそれを指摘する。
深月も蜜璃が心配になり、杏寿郎越しに彼女の顔をのぞきこむ。
「蜜璃ちゃん、大丈夫?具合悪いの?」
「ううん、大丈夫よ!元気いっぱい……」
蜜璃は笑顔になり、力こぶを作るように腕を曲げる。
そこで、彼女の背中に衝撃が走った。
振り返れば、男の子が転んでいて、ぶつかってしまったのだとわかる。
「だ……大丈夫?」
「……う、うう」
蜜璃は直ぐ様しゃがんで男の子に声を掛けたが、男の子はわあっと泣き出してしまった。
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