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第一章  九


「だから、私はいらないってば!」
「いや、一緒に食べよう!千寿郎もその方が喜ぶ!」
「千寿郎君を出すのはずるい!とにかく、私はいらないから!」
「ここに座るといい!」

深月の腰を後ろから両手で掴み、どうにか座らせようとする杏寿郎。
絶対に座るまいと、近くの柱にしがみつく深月。
二人の側で、どうすればいいかわからず、おろおろする千寿郎。まさか兄が誰かと、ましてや女性と言い争う姿を目の当たりにするなど、夢にも思っていなかった。

事の発端は、深月が杏寿郎と千寿郎の食事のみ用意し、自分は下がろうとしたことだった。

杏寿郎は「一緒に食事をしよう」と言い、深月は「お世話になるのに、煉󠄁獄家の人間と同じ物を食べるわけにはいかない」と断った。
それから十数分、口論は平行線である。

しかし、力ずくという方法を取れば、杏寿郎にがある。
杏寿郎は深月の腰を掴んでいた手を一旦離し、腹に腕を回した。そのまま一気に持ち上げようとしたところ、深月が伝家の宝刀を抜く。

「杏寿郎さん、そんなとこに触れられては困ります……」

手を口元にやり、頬を赤らめ、伏し目がちにそう言った。
杏寿郎は一瞬固まった後、「すまん!」と叫んで手を離した。

深月の勝利である。

「では、お二人で召し上がってくださいね。おかわりもありますので、お申し付けください。私は明日の仕込みをしておりますので!」

何事もなかったかのような顔で言いのけて、深月は台所へ戻っていった。

千寿郎は、固まったままの兄を見上げる。その顔は、深月が去っていった方向を見つめたまま、状況に理解が追い付いていないといった様子だった。

「兄上、今日は諦めて、頂きましょう」
「うむ!」

杏寿郎も考えることを諦め、食事の席についた。

食事中、ふと千寿郎が疑問を溢す。

「深月さんって、商家のお嬢様だったんですよね?それなのに、お料理上手ですね」
「確かにそうだな!深月は家事など全く出来ないように見えるが!」
「喧嘩売ってます?」

いつの間にか、深月がお盆を持って杏寿郎の側に立っていた。
杏寿郎は相変わらずの大声で「喧嘩など売らん!」と答える。

深月は空いた皿を下げ、代わりに湯飲みを置く。

「私が小さい頃は、貧乏だったんです。自分でいろいろ出来るよう仕込まれました」

お盆を脇に置き、正座したまま説明を始める深月。

「父が一代で財を築いてからは、女中さんを雇ったので、私が家事をする機会は少なかったですが……まあ、その財も親戚が持っていってしまったのでしょうけど」

おかげで、深月の荷物はとても少ない。ほんの少しの着替えぐらいしか持ってきていないのだ。

「私が家事を出来る理由、ご理解いただけました?」

深月がそう締めると、杏寿郎と千寿郎はそれぞれ頷いた。
深月は満足そうに、お盆を持って再び台所へと向かった。

杏寿郎と千寿郎は、深月の境遇に同情せざるを得なかった。それが彼女に失礼だとは思っていても。

幼い頃は貧乏で、裕福になったかと思えば、愛する家族はみんな殺され、自身には消えない傷が残った。
生きる糧にしようと決めた鬼殺ですら、槇寿郎に阻まれて修行もできない。
彼女が、一体何をしたと言うのだろう。

杏寿郎と千寿郎は、食事を続ける。
深月が作った食事は、本当に商家のお嬢様が作ったとは思えない程、美味しかった。







 




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