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第三章  三一


任務に向かう道中、途中まで一緒に行こうと誘われ、深月は杏寿郎に着いていく。

「少し寄り道をしよう」
「え、大丈夫ですか?」

もう夕方で、あと一刻もしないうちに日が暮れる。
自分は大丈夫だが、杏寿郎は柱としての任務初日なのだから、少し急いだ方がいいのではないだろうか。

「少し待っていていくれ」

深月の心配を他所に、杏寿郎はすたすたと店に入っていき、あっという間に戻ってきた。

いつものことだが、彼の行動の早さに呆気に取られる深月。

「待たせたな。移動しようか」

杏寿郎は深月の手を握り、またすたすたと歩き始める。

一体どこに行くのか。何を買ってきたのか。
そう聞きたいが、杏寿郎に握られた手が熱くて、しかも往来で手を繋いで歩くなんて恥ずかしくて、深月は俯く。

周囲の人々の視線が刺さるのがわかる。
ただでさえ、杏寿郎は派手な髪色で、深月の隊服は注目を集めやすい。

早くこの場から離れたくて、深月は杏寿郎に必死に着いていった。


*****


しばらくして、杏寿郎が立ち止まる。
深月も合わせて立ち止まり、顔を上げて周囲を確認する。

そこは、人通りの少ない河原だった。
桜の時期は過ぎたとはいえ日が傾けば少し肌寒いし、わざわざ河の側で休憩する人間はあまり居ない。

杏寿郎は斜面に座り、自分の隣をぽんぽんと叩く。

「深月!おいで!いいものをあげよう!」

太陽のような笑顔を向けてくるものだから、深月は素直に従って、彼の隣にちょこんと座る。

杏寿郎は人目が無いのをいいことに、深月の肩を抱き寄せ、手を差し出す。

その手には、お菓子の箱が乗っていた。

それを見て、深月が目を輝かせる。

「キャラメル……!」
「食べていいぞ!余ったら、千寿郎にも分けてやってくれ!」

杏寿郎はキャラメルの箱を深月の胸の前に差し出す。
深月が両手を揃えて差し出すのを待ってから、その上にキャラメルの箱を置く。

「ありがとうございます」

早速、嬉しそうに箱を開ける深月。

深月といい、蜜璃といい、女性は甘いものが好きなのだな、と杏寿郎は目を細める。

深月はキャラメルを一つ取り出し、包み紙を開け、中身を摘まんで杏寿郎の口元に差し出した。

「はい、どうぞ!」
「深月……?」
「杏寿郎さんが買ってくださったんですから、一番に食べてください!」

屈託のない笑顔で差し出され、杏寿郎は頬を染めながらもキャラメルを口に含んだ。
その際、深月の指も少し口に入ってしまい、甘いのはキャラメルか彼女の指かわからなくなる。

「美味しいですか?」
「ああ。甘いな」

杏寿郎の返事を聞いて、「じゃあ私もいただきます」と深月はもう一つキャラメルを取り出す。
それを口に入れて、幸せそうに顔を綻ばせる。

「甘くて美味しいですねえ」

そう言って、その一つのキャラメルをよく味わって食べ、深月は残りを懐に仕舞う。

こんなに美味しいのだから、残りは任務後のご褒美にして、千寿郎と一緒に食べようと思ったのだ。

「もういいのか?」
「はい。残りは千寿郎君と食べようと思いまして……あ、杏寿郎さんもう一つ欲しいですか?」
「ありがとう。大丈夫だ」

杏寿郎は、深月の肩をより強く抱き寄せる。
その勢いで深月は体勢を崩し、杏寿郎の脚に手を突いてしまう。

杏寿郎の顔が一気に近くなり、深月は赤面しながら口を開く。

「す、すみません……」
「深月。ありがとう」

また礼を言われ、深月は首を傾げる。

何の礼かわかっていない様子の深月を見て、杏寿郎は愛おしそうに眉を下げる。

「千寿郎のことを、いつも想ってくれて、ありがとう。父上のことも、愛想を尽かさずに世話をしてくれている」

深月は一瞬驚いた後、優しく微笑んで杏寿郎の頬に手を添える。

「千寿郎君も槇寿郎様も、私にとっては家族も同然ですから。当たり前のことをしているだけですよ」

それに、と深月は目を細める。

「私、実は杏寿郎さんが一番大切なんです。二人には内緒ですよ?」

そう言って、にこっと笑う深月に、今度は杏寿郎が驚いた顔になる。

深月は続ける。

「杏寿郎さんには私が居ます。杏寿郎さんや千寿郎君が寂しい思いをしないように、私もっと頑張りますね」

それを聞いて、杏寿郎は昼間のことを思い出す。
縁側で、千寿郎と話したときのことを。

あの時、自分には何もないようなことを言ってしまった。
父に喜んでもらえなくとも、自分には深月が居るというのに。

深月だって、父に見離されたようなことを言われて、落ち込んでいた。
彼女を励ますためにキャラメルを買って話をするつもりだったのに、逆に励まされてしまった。

杏寿郎は恥ずかしさや嬉しさで震えそうになる声をなんとか抑え、ゆっくり口を開く。

「ありがとう」
「いいえ。当たり前のことですから!」

にこにこと笑う深月がどうしようもなく愛しくなって、杏寿郎は彼女に顔を近付ける。

人通りが殆ど無いとはいえ、ここは外だ。
嫌がられるか、最悪殴られるだろうか。

そんなことが一瞬頭を過ったが、意外にも深月は目を閉じた。

それがまた嬉しくて、杏寿郎は笑顔で深月に口付ける。
舌を入れて絡めれば、キャラメルの甘い味がした。

唇を離せば、深月が遠慮がちに見上げてくる。
相変わらず可愛い反応をする、と杏寿郎の笑みは深くなる。

少し見つめ合った後、深月が恥ずかしそうに笑う。

「ふふ。キャラメル味でしたね」

つられて、杏寿郎もふっと笑う。

「ああ、キャラメル味だったな」

そして、もう一度だけ口付けを交わした。




第四章へ続く






 




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