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放課後。昼休みには人気の少ない中庭も、部活棟に向かう生徒がちらほらと通る。
自販機で買った紙パックのジュースを飲みながら、深月はよく使うベンチに腰掛け、ぼんやりと人の流れを眺める。
ちなみに、杏寿郎は教師に手伝いを頼まれてどこかへ行ってしまった。
先に帰ると伝える暇もなかったので、とりあえず少し待ってみることにしたのだ。
まあ、伝えたところで却下されただろうが。
大分慣れたが、気まずいままで、それなのに彼と一緒に過ごす習慣が抜けなくて。
これからのことを考えると、少し気が重くなる。
「あの夢のせいだ……」
深月はぽつりと呟く。
物心ついた頃から見る、おかしな夢。
あの夢の中の自分が夢の中の杏寿郎を好きすぎるあまり、現実の自分が幼馴染みの杏寿郎をどう思っているのか判断がつかない。
そのせいで、杏寿郎にはっきり告白の返事ができず、気まずいままなのだ。
そんなことを考えていると、独り言に返事があった。
「何が?」
「うわあ!」
深月は肩を跳ねさせ、声がした方を振り向く。
そこには宇髄が居て、不思議そうな顔で深月を見下ろしていた。
「んー、ちょっとね……えへへ」
夢の内容は誰にも話せない。話したところで、頭がおかしくなったと思われるだけだ。
深月は作り笑いをして、曖昧に答える。
宇髄はさして追求せず、「ふーん」と興味無さげに言う。彼には、そんなことより気になっていることがあった。
「なあ、煉獄となんかあっただろ?」
唐突な問いに、飲んでいたジュースが変なところに入って、深月は盛大に噎せる。
華の女子高生らしからぬ噎せ方に、声を掛けた宇随は若干引きつつ、やはり何かあったのだな、と察する。
彼女のスカートを捲った時は、元気な平手打ちを食らったので、そのせいではなさそうだ。
そもそも、自分のせいなら、とっくに杏寿郎や深月に責められているはずだ。
と、なると。
「もしかして、ヤったのか?」
「やったって、何を?」
深月がきょとんとした顔になる。
宇髄は彼女の隣に座り、耳に顔を寄せて口元に手を添える。
秘密の話なのかな、と思った深月も、彼に少し上半身を傾ける。
「煉獄とセックスした?ってこと」
「んなっ……!!」
深月は瞬時に真っ赤になり、思わず持っていたジュースを宇髄の顔面めがけて投げつけた。
幸い、ジュースは飲み終わっていて、中身が飛び散ることはなかった。
反応からして、セックスはしてないのか、と宇髄は考える。
顔面に当たる直前にキャッチした紙パックを握り潰して、少し離れたところにあるゴミ箱めがけて投げる。
ゴミ箱へ見事に入った紙パックに、周囲から小さい歓声が上がる。
それは無視して、宇髄は深月に向き直る。
「じゃあ、入れてはないとか?まさか、まだキスまで?」
「なんでそんなことになるの!?っていうか、すごいセクハラ!!」
深月は真っ赤なまま、眉を吊り上げて怒鳴る。
一体なんなのか。なんてことを聞くのか。そもそも、杏寿郎とはそんなんじゃないのに。
そこまで考えて、深月ははた、と気付く。
どうなるかはわからないが、もし今後、杏寿郎と付き合うことになったら、自分は彼とキスをするのだろうか。
その先の行為もすることになるのだろうか。何をするのか詳しくは知らないが。
想像するだけで心臓が止まりそうになって、深月は俯いて震える。
考えないようにすればするほど、杏寿郎とキスをする自分を想像してしまう。
「宇髄くんのばか……変態……」
「ばっか、お前。煉獄だって男だぞ?」
「杏寿郎は変なことしな……」
変なことしないもん、と言い掛けて、いや待てよ、と思い直す。
告白されただけならともかく、許可なくキスされそうになったし、頬や手の甲にはキスされている。
それに、手を握ったり抱き締めたりしてくるとき、たまに厭らしい触り方をされる。
(あれ?結構変なことされてない?)
深月は眉間に皺を寄せ、黙り込む。
それを見た宇髄がどうしたのかと尋ねてくるが、赤裸々に話せば杏寿郎の人としての尊厳を傷付けるような気がして、何も答えられなかった。
それに、なんだか宇髄に知られるのも恥ずかしかった。
「んだよ、胸でも揉まれたか?」
「ちっがーう!なんでそういうことばっかり言うの!?」
深月が中庭に響くくらいの大声を上げたところで、杏寿郎が彼女を迎えに来た。
*****
翌朝。
深月はもぞもぞとベッドから起き上がり、大きな溜め息を吐いた。彼女の顔は耳まで真っ赤だ。
「なんでこんな夢……」
両手で顔を覆って、せっかく起き上がったのにベッドに倒れて、ごろごろと左右に転がりながら悶える。
彼女は今日も、いつも通りの夢を見た。
妙な格好をした杏寿郎が出てきて、化物と戦う夢を。
終わり方もいつもと同じ、杏寿郎の胸に穴が開いたところでぶっつりだ。
ただ、その前がいつもと違った。
杏寿郎も自分も浴衣みたいな服を着ていて、場所は薄暗い和室で。
キスされたと思ったら押し倒されて、彼の手が自分の身体を遠慮なくまさぐって、最後には──
「うわあああ!なんなの、もう!」
昨日、宇髄に変なことを言われたからだろうか。
最近、杏寿郎に変なことをされているからだろうか。
見たこともない男性の裸に、やり方も知らない性行為。
どちらも薄暗いなりにはっきり見えて、感触もリアルで、とんでもない夢だった。
先日とはまた別の意味で気まずくて、今日も学校に行きたくない、と深月は頭を抱えた。
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