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放課後。ファミレス。その一角。
杏寿郎達五人は、いつもの面子で集まっていた。
ちなみに、深月は本日病欠だった。
先日と違い、杏寿郎が迎えに行っても部屋に入れてもらえず、声を聞くことすら叶わなかった。
ドリンク片手に、宇髄が杏寿郎に尋ねる。
「なあ、雨宮となんかあった?」
深月に同じ質問をしたときは、まともな返事が返ってこなかったので、杏寿郎に尋ねることにしたのだ。
杏寿郎は「告白した!」と簡潔に答える。
宇髄は感心したように声をあげ、不死川と伊黒は驚いて言葉を失う。冨岡は嬉しそうに微笑んだ。
宇髄はドリンクを置いて、杏寿郎に詰め寄る。
「んで?ヤった?」
下世話な質問に、不死川が噎せ、伊黒が溜め息を吐き、冨岡がきょとんとする。
杏寿郎はというと、困ったように笑っていた。
他の四人にとっては、彼が怒らないことも意外だったが、回答も予想外だった。
「いや、そもそも返事をもらってないんだ。今、口説いている最中だ」
「口説いてる最中って……」
あれだけ深月にべったりだったのに悠長なことだ、と思いながら、宇髄は出会ってからの深月の様子を思い浮かべる。
彼女の様子からして、杏寿郎のことを好いているのは確かだろう。ただ、何か悩んでいるように見えた。
何をそんなに悩むことがあるのかわからないくらい、彼らはお似合いだと言うのに。
やはり、また彼女に話を聞いてみるか、と思って、昨日からかいすぎたことを思い出す。
自分では警戒されそうなので、不死川か伊黒あたりに探りを入れてもらうか、と考える。
残念ながら、言葉足らずな冨岡には頼る気になれなかった。
*****
翌日。
深月はなんとか気合いを入れて、登校していた。
ただ、杏寿郎とは目を合わせられずにいるが。
とんでもない夢を見たせいで、気まずいのだ。
その上、あの夢を見たくなくてあまり眠れていないので、ひどい寝不足だ。
放課後になって、杏寿郎から逃げるように帰ろうとしたが、すぐに捕まった。
係の仕事があるらしい彼から、「先に帰ったら、明日の朝ベッドに潜り込むからな」と脅され、大人しく教室で彼を待つ。
なんだその脅しは。部屋に上げなければいい話じゃないか、と深月は思ったが、母なら部屋に通しかねない、と気付いて抵抗するのを止めた。
誰もいない教室で、一人課題を進めながら杏寿郎を待っていると、不意に声を掛けられた。
「よォ。煉獄はどうしたァ?」
声を掛けてきたのは不死川だった。相変わらず、制服の前を開けて、鋭い目付きをしている。
それでも、実は弟思いの優しい人物だということは知っているので、深月は笑顔で対応する。
「係の仕事だよ。もうすぐ戻ってくると思うけど」
「そうかい」
不死川は深月の前の席の椅子を引き、横向きに座って上半身だけ彼女の方を向く。
てっきり、杏寿郎に用があると思っていた深月は首を傾げる。
「どうかしたの?」
「いや、まあ……」
不死川は言い淀んで、でも割とすぐ本題に入った。
「煉獄のこと好きじゃねぇのか?」
「へっ……え、な、なんで……」
「本人から告白したけど返事もらってないって聞いた」
「あー、そっかあ……」
へへっと誤魔化すように笑う深月の目元に隈があることに気付いて、不死川はぎょっとする。
寝不足になるほど悩んでいるのか、と。
思ったままを尋ねると、深月はゆるゆると首を振った。
「いや、これは悩んでるとかじゃなくて、夢を見たくなくて」
その様子がおかしいので、なんだかんだで世話焼きの不死川は深月を問い詰めた。
どうしたのか。相談に乗るし、杏寿郎にも誰にも話さない。そんな顔ではみんなが心配する、と。
不死川の声が思いの外優しくて、寝不足で判断力が鈍っていたこともあって、深月はつい口にしてしまった。
昔から見ている、不思議な夢のことを。
もちろん、とんでもない内容については話せなかったが、杏寿郎や不死川達が出てくることや人外の化物と戦っていることは話した。
そして、夢の中の自分の感情のせいで、杏寿郎への気持ちがわからないことも。
話し終えて、ちらりと不死川を見れば、彼は心底驚いた顔になって、硬直していた。
深月は急に冷静になってきて、やってしまったと後悔する。
「ごめんね、変な話して。忘れ……」
忘れて、と言い掛けたが、不死川が腕を掴んできたので、吃驚して言葉を止める。
「それ、煉獄に言ってねぇのか!?本当に、夢の話だと思ってんのか!?」
「え、え?どういうこと?」
夢のせいで貴方が好きかわかりません、なんて。杏寿郎に言っても、体よく断ったようにしか聞こえないだろう。
それに、夢の話だと思っているのか、とはどういうことか。
不死川の意図がわからず、深月は困惑する。
とにかく、掴まれた腕が痛かった。
「痛いよ。不死川くん、離して」
「それ、夢じゃねぇ……夢じゃねぇんだ……お前は、煉獄と……」
不死川の声が段々と小さくなって、なんだか表情も辛そうで、深月はどうしていいかわからなくなる。
とりあえず彼を慰めようと口を開いたところで、教室の扉が勢いよく開いた。
「深月を離せ!」
明らかに勘違いして怒っている杏寿郎が飛び込んできて、深月を横から抱き締めつつ、不死川の腕を強く掴む。
不死川はパッと深月を離し、杏寿郎も彼を離して深月をぎゅうっと抱き締める。
深月が苦しいと主張しても、力を緩めることはなかった。
「深月に何をしていたんだ!」
「話してたんだよ」
「何の話だ!」
「それは言えねぇ」
不死川は暗い顔で俯く。
こんなこと、杏寿郎には言えない。
深月は前世のことを覚えているが、全て夢だと思っている、だなんて。杏寿郎にとっては酷な話だろう。
杏寿郎はそれ以上追及せず、不死川も何も言わずに去っていった。
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