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杏寿郎と深月の様子を見て、宇髄は違和感を覚えた。
彼らの距離感が戻っている。特に、最近の深月のぎこちなさのようなものが消えている。
だが、それだけでなく、深月が杏寿郎に何をされても嫌がっていない。それは昔からではあるが、そうではないのだ。
遠目に見えるのは自販機の前で突っ立っている深月。おそらく、何を飲むのずっと悩んでいる。
そんな彼女に杏寿郎が後ろから近付き、抱き締めたかと思うと、頬に唇を寄せる。
深月は恥ずかしそうにしているが、それでも笑顔を浮かべている。以前の彼女なら、あそこまでされたらさすがに肘鉄の一つでも繰り出しそうなものだが。
(え、あいつらついに付き合い始めたの?)
これはもう興味しか湧かなくて、深月を問い詰めよう、と宇髄は考えた。
しかし、先日のセクハラ紛いの発言で深月に警戒されていることを思い出し、まずは警戒を解くところからだ、と思い直した。
*****
昼休み。
宇髄はいつもの人気の少ない中庭で深月を見つけ、彼女の隣に遠慮なく座る。
彼女は雑誌を広げていたので、肩を抱くようにして横からのぞきこむ。
「雨宮、何見てんの?」
そのまま普段通り声を掛けると、深月は眉間に皺を寄せて雑誌を閉じ、それを宇髄の顔に押し付けてきた。
「離れて。近い」
容赦なく発せられる冷たい声と押し付けれられる雑誌に従い、宇髄は上体を反らす。
杏寿郎とはえらい扱いの違いだ。
これは、かなり警戒されている。
なんとかこの警戒を解かねば話を聞けない。
宇髄は笑顔を浮かべて、深月の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「この前は悪かった。機嫌直せよ。何見てるか俺にも教えてくんない?」
全く誠意のこもっていない謝罪に、深月は小さくため息を吐いた。
宇髄のこういうところは、今に始まったものではない。
出会ったときから無遠慮で、何かにつけて兄貴風を吹かせてきて、なんだかんだで面倒見がいい。
深月も彼の前では自分が長女であることを忘れ、下の子になったような気分になる。
そんな彼のことを嫌いにはなれなくて、結局いつも折れてしまうのだ。
「もうあんなことしないでね」
ちらりと横目で宇髄を見ながら言う。
「あんなこと?」
とぼけるように返す宇髄の顔に、深月は再度雑誌を押し付ける。
今度は、読んでいたページを開いた状態で。
「スカートめくったり、変なこと言ったりしないでね。あと、見てたのはこれ」
「近い近い」
顔面に張り付けられては、雑誌に何が書いてあるかなどわからない。
宇髄は雑誌を片手で持ち、それを確認した深月は押さえ付けていた手を離す。
顔から離して、宇髄は雑誌のページを確認する。
それは、水着特集だった。
「水着買うの? 煉獄めっちゃ文句言いそうだな」
宇髄がへらっと笑いながら言いのけると、深月はギシッと固まった。
彼の一言で、不安を覚えたのだ。
杏寿郎は深月に対して過保護なときろがあって、それは杏寿郎本人以外なら知っていることだ。
やれ「スカートが短い」だの、「うなじを見せるな」だの、深月の服装や髪型を注意してくるときがあるのだ。
しかし、深月が水着特集を見ているのは、友人とプールに行く予定を立てているからであって。
水着を着れなければプールには行けない。
さすがに、杏寿郎も水着にまで文句を言ってこないだろう、と深月は楽観的に結論付ける。
「多分、大丈夫だと思う」
「そうか?厳しそうだけどなあ、お前の彼氏」
「えっ?」
宇髄の言葉の意味がわからず、深月は首を傾げる。
今は杏寿郎の話をしていたのに、どうして突然居もしない彼氏の話になったのか。
深月の反応を見て、宇髄は信じられない、といった顔になり、自身の口元を手で覆う。
「え、お前ら、まさかまだ付き合ってねえの……?」
「お前らって?」
「お前と、煉獄」
深月は再度首を傾げ、暫し硬直する。
それから、宇髄が何を言わんとしているのか理解し、ぶんぶんと首を振った。
「ち、ちが……杏寿郎とはそんなんじゃ……」
「でも前より仲良さげだったし、好きなんだろ?」
「それは、まだわかんない……」
「はあ?」
宇髄は目を丸くする。
あれだけ仲睦まじい雰囲気を醸し出しておきながら、『好きかどうかわからない』など、意味がわからない。
外野から見れば、杏寿郎と深月は紛うことなき両想いだ。いい加減くっついてくれないと、そろそろ面倒くさい──否、杏寿郎が不憫だ。
いっそ深月を問い質してやろう、と宇髄が口を開いたところで、彼よりも先に深月が声を発した。
「あ、そうだ!宇髄くんはどれが可愛いと思う?」
そう言って、雑誌を指差した彼女の顔は赤いのに少し青くて、困惑しているのが見てとれた。
宇髄にとっては、このままではおもしろくないが、彼女なりに悩んではいるのだろう。
今は何を言っても無駄か、と諦めて雑誌に視線を落とした。
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