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無限の霞を


血鬼術による滅茶苦茶な造りの建物の中で、深月は上弦の壱と遭遇した。

上弦の壱は、既に数名の隊士と戦っていて、その中の一人に、彼女の恋人も居た。

深月は恋人の姿を視界に捉え、息を呑む。

恋人は──無一郎は、片腕が手首あたりから無かった。
止血はしているが出血が激しく、あと何時間持つかわからない。

深月は溢れ出そうになる涙をぐっと堪え、上弦の壱と戦闘中の悲鳴嶼と実弥の加勢に向かった。

彼らが戦っているのに、彼らと同じ柱である深月が、鬼殺より恋人を優先するわけにはいかなかった。


*****


上弦の壱の強さは異常だった。

一振りの斬撃の周りに不規則で細かな刃。
それは常に長さや大きさが変化する。
避けたつもりの攻撃は変則的で、柱達を襲う。

さらには、技の数も異常なまでに多かった。

人間が使う呼吸による剣技は、多くても十程度。
上弦の壱が使う呼吸の型は、十などとっくに越えている。

深月も実弥も、鬼殺隊最強であるはずの悲鳴嶼ですら、いくつも攻撃を食らい、血を流している。

そんな中、無一郎は傷だらけの体で駆ける。
上限の壱の懐に近付き、ほんの少しでもその動きを止めるべく。

そうすれば、悲鳴嶼か実弥が、深月が、奴の頚を斬ってくれると信じて。

無一郎は深月の顔を見る。
そして、一瞬だけ愛おしそうに目を細めた。

自分に残された時間が少ないのはわかっていた。
だからこそ、彼女の幸せを一番に願った。

無一郎の意図を察した悲鳴嶼が、実弥と深月の名を呼ぶ。
それだけで、彼らも無一郎の意図を汲んで、動きを合わせる。

四人同時に向かってくるのを確認し、上弦の壱は技を繰り出す。

全員で協力し、その攻撃の隙間をくぐり抜ける。
無一郎の日輪刀が、上弦の壱に届いた。

上弦の壱は驚く。

頸動脈を斬ったはずの無一郎の刀が、自身に突き刺さっている。
限り限りで躱したのか、と。

しかし、上弦の壱はすぐに次の構えを取る。

無一郎は決死の覚悟で、日輪刀を握り締め、先程の事を思い出す。

この部屋には、玄弥も居る。
無一郎は、自分が上弦の壱の動きを止めた際、自分もろとも撃っていいと、彼に伝えていた。

部屋の柱の影で、玄弥が銃を構える。
そして、約束通り無一郎もろとも上弦の壱に肉弾をぶちこむ。

上弦の壱が刀で弾いたはずの弾は、意思があるかのように曲がって、その腕にめり込んだ。

無一郎や上弦の壱の体に埋まった弾が、メギと不気味な音を立てる。
彼らの体に太く大きい木が生えた。

動きが止まった上弦の壱の頚を斬り落とすべく、悲鳴嶼、実弥、深月の三人が跳躍する。

その瞬間、深月の背筋にぞくりと嫌な感覚が走った。

深月は上弦の壱の首を斬るのを止め、無一郎の周囲の木を斬って、彼を解放する。

上弦の壱が、大量の斬撃を放つ。

深月は無一郎を抱え、大きく後ろに跳ぶ。
その際、彼の腕にくくりつけてあった日輪刀が、上弦の壱から抜ける。

夥しい数の斬撃が、五人を襲った。

深月は無一郎を庇うように抱き締め、滑るように着地する。

上弦の壱を見れば、身体中から刃を生やしていた。
振り動作無しで、刃の数だけ斬撃を放ったようだ。

深月はそれを見つめて震える。

(何やってるの、私……柱失格だ……)

無一郎を優先してしまった。私情に囚われてしまった。
そのせいで、せっかく上弦の壱の動きを止めていた無一郎の日輪刀も抜けてしまった。

心の中で自分を詰って、責めて、動けなくなる。

一瞬、想像してしまったのだ。
無一郎を犠牲に上弦の壱を倒して、無惨も倒して、その後無一郎がいない世界で生きていくことを。

そんなの、耐えられなかった。

無一郎はあと何時間生きられるかわからない。
もし今日助かったとしても、痣が発現している以上、長くても十年と少ししか生きられない。

それでも、深月の心は無一郎を助けることを選んだ。

深月が動けなくなっている間、悲鳴嶼と実弥はまた上弦の壱へと向かっていく。

無一郎は、助けられた状況に困惑しながらも、思考を巡らせる。

悲鳴嶼も実弥も、きっと死ぬまで戦う。
しかし、まだ無惨が残っている。上弦の壱を倒して終わりではない。
皆のためにも、この二人は守らなければいけない。

自分の側で震えている恋人にも、どうにか生き延びてほしい、と。

何かできることはないか、何かしなければ、と考えて、自然と日輪刀を握り締める手に力が入った。

すると、彼の日輪刀の刃が赤く染まっていく。

それを見て、無一郎は叫んだ。

「深月!!」

深月は彼の方を振り向く。
色が変わった日輪刀を視界に捉えて、無一郎を抱えると、弾かれるように跳躍した。

赤くなった刃を、上弦の壱に改めて突き刺す。

次の瞬間、上弦の壱の動きが鈍る。
赤い刃が刺さったことにより、体が強張り、内蔵を灼かれるような激痛に教われたのだ。

悲鳴嶼と実弥の猛攻に、深月も加わる。

もう間違えない。無一郎が側に居るのだから、上弦の壱を倒すことが彼を生かすことに繋がるのだ、と考え、日輪刀を振るう。

無一郎の赤い刃で動きを鈍らせ、柱三人で攻撃しても、上弦の壱の頚はまだ斬れない。

そんな中、上弦の壱の体から、また木が生えた。
先程の攻撃で真っ二つになったはずの玄弥が、最後の力を振り絞って血鬼術を発動させたのだ。

玄弥の肉弾がまだ体内に残っていたことに気付いていなかった──否、気付いていても柱三人の猛攻のせいで構っていられなかったため、上弦の壱は、そこで漸く玄弥に意識を向ける。

しかし、技を出すことは叶わなかった。
玄弥の血鬼術が上弦の壱の血を大量に吸っている上に、赤い刃による激痛は消えていないからだ。

悲鳴嶼の鉄球が、斧が、上弦の壱の頚を狙う。
鉄球は直撃するも頚を落とすには至らず、斧は寸でのところで防がれた。

それでも、鉄球の上から、実弥と深月が日輪刀そ振り落とす。

鉄同士がぶつかったことにより、三つの日輪刀が赤く染まっていく。

「ぐああああ!!」
「落ちろおおお!!」

実弥と深月がさらに力を込める。

ドゴンという鈍い音と共に、上弦の壱の頚が地面に叩き付けられた。


*****


「深月」

優しい声で名前を呼ばれ、深月は笑顔で振り返る。

「無一郎!おかえり!ご飯もうできるよ!」

そう言うと、無一郎はにこにこ笑いながら、深月に近付き、「ただいま」と言って、彼女に頬を寄せる。

深月も無一郎の方に首を傾ける。

「今日ね、炭治郎君から手紙来たよ。今度みんなでご飯食べましょうって」
「ほんと?嬉しいなあ」

他愛もない話をして、一緒に食事をして、隣で眠る。
ただそれだけのことがこの上ない幸せで、深月は目を細める。

あの決戦の日、無一郎は片腕を失いながらも生き残ってくれた。

痣者の無一郎に残された時間は、他の人間と比べると少ない。
しかし、幸せは長さではない、と無一郎も深月も思っている。

この深い深い幸せな日々を、一日一日大切に生きていこう、と決めている。





いつも長編を読んでくださってるんですね!嬉しいです!

リクエスト内容について、お気遣いもありがとうございました。
ちゃんと救済できましたでしょうか(・ω・;)
救済方法考えるために原作を読んで泣いてしまいました……
無一郎君は初めて書いたのですが、楽しかったです!
素敵なリクエストありがとうございました!











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