3月5日
3月5日(金) 朝
今日は月光館学園の卒業式の日、そして、
……"約束の日"……。
「どうしたの。心配?」
隣に座る、やや疲れた様子の湊が俯いた私の顔を覗き込む。
「心配っていうか……」
心配と言われると少し違う気がする。
ニュクスを倒した後、湊と私以外の仲間は、影時間やシャドウ、ペルソナなど以前の記憶を無くしてしまっていた。
もちろんそれ自体はわかっていたことだ。しかし何故私達は記憶を保ったままなのだろうかと、あれ以来考えていたが、答えなど出るはずもない。
「ちょっと、落ち着かないだけ」
「……そっか。永、卒業式サボッてるもんね」
「なっ、湊だって!」
「僕は卒業しないけど、永は自分の卒業式があるだろ?」
……確かに、今日は中等部の卒業式でもあるから、私は美鶴さんや真田さんと同じく卒業生の一人だ。
そして4月からは、高等部に入学することになっている。
もともと私たち兄妹をこの学校に特待生として入学させてくれたのは理事長――幾月さんだった。
しかし4月からも月光館学園に通えることになったのは、美鶴さん、というか桐条の支援があるからだ。
――高等部に入学したら、同じ学校に通えるね、と、そう言おうとした。
なのに、声を出そうとしているのに、それを言ってはいけないような気持ちになる。
「永?」
「えっ、あ、なに?」
「ぼーっとしてた」
「ご、ごめん」
「別にいいけど、考え事でもしてた?」
……言ってしまおうか、
「私、こ、今年から高等部、だから――」
どうしてか、声が震えた。
言葉も途切れ途切れだ。
「一緒に、通えるよ、ね……?」
湊を見ることが怖くてできない。
どうしてこんなに不安になるのかが、わからない。だけど何か――
「…………」
湊は言葉を選んでいるようだ。なんとなくだけど、そんな気配がした。
「……僕も、永と一緒に通いたいな」
と、湊は返した。