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3月31日(水) 昼間
巌戸台分寮4階、作戦室――いや、元作戦室に、伊織、山岸、天田、私を含め4人が集まっていた。
「……やっぱり、ゆかりちゃんは来ないみたい」
先ほどまでゆかりと電話をしていた山岸が残念そうに言う。
「仕方ないさ。私も最近は忙しくてな……正直、この回収がなければ来られなかったかもしれん」
「召喚器……ちっと惜しい感じもすっけど、実際使わねーもんな」
テーブルの上に並べられた召喚器を伊織が数えていると、アイギスがやって来た。
「これで全部です」
二つの召喚器をテーブルに置く。
「これって……」
「ああ……"彼ら"の分は君が保管していたんだったな」
「…………」
「あの、美鶴さん。永さんは……退院はすぐでしたよね?」
アイギスは不安そうだ。
「ん? ああ、灯のことなら心配はいらない。今日には戻ってくる」
「本当ですか!?」
「ああ。さっき電話をかけたが、"特上寿司には間に合うようにする"と言っていたぞ」
「よかった……!」
アイギスはほっとしたように息を吐いた。
"彼"が眠るように息を引き取った後、永は塞ぎ込み、終には生活もままならなくなり入院しいていた。
……いや、塞ぎ込むというより、あの様子はかつての無気力症に近かった。外部からの音や痛みに鈍く、反応が薄い。会話は一応出来たが、彼女は以前のような性格を失い、何事にも無感動だった。
先々週くらいから徐々に回復し始め、今日には退院できるという。
「そっか……永さん、戻ってこられるんですね」
「冗談も言えるみてーだし、もう大丈夫だろ」
天田と伊織、山岸も安心したようだ。
その様子に私も笑みをこぼしたが、おそらくかつての仲間が集まることは今後はそうないだろう。
アイギスも4月からはラボに戻る。その支度のため、彼女は先に部屋に戻って行った。
「そろそろ、下で準備しません? 永ちゃん戻ってきちゃうかも」
「そうだな」
山岸の提案で、1階へ降りることにした。