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夜。

寿司も届き、後は永を待つのみとなった。

「永、遅せーな……」

「そうですね……」

「あー! 早く食いてー!」

「順平さん、そんなカリカリしてると老けますよ?」

「だってよ――」

伊織が天田に言い返そうとした瞬間、ドアの開く音がラウンジに響いた。

全員の視線がそちらに向く。

「永ちゃん! おかえりなさ――」

山岸はおそらく"おかえりなさい"と言おうとしたのだろうが、その言葉は途切れた。

「え……永さん、どうしたんですか!? その髪……」

そう、髪だ。約一週間ぶりに見た彼女は、長かった髪をばっさりと切っていた。

しかしその姿は、

「ああ、これ? 長くなったから、切ったんだけど……似合うかな?」

「…………」

言葉を失った。

「……ごめんなさい。別に似せようと思って切ったわけじゃないんです。ただ、切ってみたら、思った以上にっていうか……」

本人にも自覚はあったらしい。

確かに二人とも中性的な面立ちではあったが……しかし、本当にそっくりだ……。

永は申し訳なさそうにしているが、その表情は以前より機微が少なくなっているように思える。

「まあ、なんにせよ、戻ってこられて良かった。寿司ももう来てるから食べるといい。遠慮はいらないぞ」

「そうだぜ永。お前、中々帰ってこねーから、オレっちの腹が背中とくっつくとこだったんだかんな!?」

「え、そうなんですか?」

「そうなんですかって、お前な……」

「すみませんでした……?」

「疑問系かよ……。つか、いいから食おうぜ。オレ、マジ限界」

「あ、そうですね。お寿司も早く食べないとまずくなっちゃいますから……」

すっかりいつも通りに戻った永を交え、ひとまず食事をとることにした。


*****


夜も更けてきて、もうすぐ0時だ。

影時間はもうないが、やはりこの時間はどうしても意識してしまう。もはや習慣だ。

寿司もほとんどなくなって、残っているものももう乾きかけている。

伊織や天田、山岸はソファでうたた寝を始め、アイギスは先に部屋に戻っていった。

永は何をするわけでもなく、ソファに座りぼうっと前を見つめている。

「永。その……大丈夫か?」

こういう時に何と声をかけていいのかがわからない。

肉親を失う悲しみや虚しさは経験した身だ、わかっているつもりだが、彼女の場合は少し事情が違う。

彼の死因は一応衰弱ということになっているが、実際のところは不明のままだった。

「何がですか?」

永の返答は極めて冷静で、そして感情を感じさせないほど平坦だった。稼働したばかりの頃のアイギスのようですらある。

やはり、以前のままに戻ったわけではないようだ。

「いや……」

「……兄のことですか? それなら大丈夫です。ご心配おかけしてすみませんでした」

「永……君は――」

言いかけた瞬間、ちょうど0時になった。

もちろん影時間ではないが、何か違和感を感じる……。

「今、何か……」

永も同じようだ。

「……ん、何スか……?」

寝ていた3人も起きたようだ。

つけっぱなしにしていたテレビから音声が聞こえてくる。

『日付が変わりまして、3月31日のニュースです』

……3月31日?

「あれ、今日って確か4月1日じゃありませんでした?」

「だよな。アナウンサー、日付間違えたんか?」

「でも、携帯は3月31日ですね……」

……どういうことだ……?

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