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江戸川先生による特別授業が終わった後、集合まで少し時間があったので、私は一人で屋上に来ていた。
当然ながら他に人はいない。
最後にここに来た時からまだ2年と経っていないにも関わらず、この光景を懐かしいと感じるのは、あの頃のことを過去として受け入れられていると思っていいのだろうか。
それとも、考えないようにしていただけか。
「…………」
……なんか、自分今、すごく浸っているような……。
ともあれ、まだ時間に余裕があることを確認して、ベンチに腰を下ろす。
"あの日"と同じ場所に座り、しかし記憶と違うのは、着ている制服とやや暑さの残る日差し、そして自分が一人だということだ。
太ももに感じた重みもなければ、すぐ側にいた仲間も今はいない。当たり前だ。
しばらくの間、何をするでもなく、平和な巌戸台の街を見下ろした。
……そろそろ戻る時間だ。
そう思い、立ち上がると、
「あっ、いた! 永ー!」
「千枝ちゃん。……どうしたの?」
「どうしたのって、もうすぐ集合なのに永いないんだもん。探しに来たに決まってんでしょ。行こ?」
そう言った千枝ちゃんは、私の手を取って屋上を後にする。
思わず引き止めそうになったが、そうするだけの理由もなく、千枝ちゃんに従った。
「屋上に何か用でもあった?」
「ううん、別に……ただの気分転換」
「そ? まあ、こんなトコまで来て授業だもんね」
あ、そうそう、と千枝ちゃんは話題を変える。
「ホテルの部屋割り、永はあたしと雪子とりせちゃんと同じ部屋だから」
「賑やかになりそうだね」
そう返せば、千枝ちゃんは楽しそうに笑い、向こうに見えた雪子ちゃんたちに手を振った。