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【永視点】
修学旅行2日目。
午後は辰巳ポートアイランド内を見て回った。
そして夜……りせちゃんの勧めで、ポロニアンモールにあるクラブ・エスカペイドに来た。
「おーすげぇ、これがクラブか……!」
「やーばい、あたしテンション上がってきた!」
「こういうとこ、地元に無いもんね」
稲羽育ちの三人はやはり馴染みがないらしく、店内を珍しそうに見回していた。
「いいんですか? 高校生がこんな所に来て」
青い帽子の少年がカウンター席からこちらに声をかけてきた。
最近騒がれている転校生、探偵の白鐘直斗くんだ。
「い、いいんですかって、お前のが先に居ただろ! てか、そっか、1年もって事は、旅行お前もか……」
「見たところ、客層は良さそうだし、問題は起きなそうですけどね」
そう言うと、彼はそのまま店を出て行こうとしたが、千枝ちゃんや雪子ちゃんに引き止められ、驚いた顔をした。
「一緒にって……僕とですか?」
「うん。この間は話せなかったでしょ」
以前、放課後に誘った時の埋め合わせらしい。
「こ……この間は、用事があっただけです」
「なら、今は流石にヒマでしょ? 私、話したいと思ってたんだ。同じ歳で"探偵"なんて、興味あるもん」
次々と勧められ、照れながらも満更ではない様子だ。
「なんだー? 微妙に顔赤くないか?」
「あ、赤くないです!」
白鐘くんも参加することになった。
「ちょっと待ってて。上、貸し切るから」
「おう。……おう!? 貸し切る!?」
「うん。大丈夫、たぶん顔利くから」
さすが、アイドルだ……。
*****
2階を貸し切り、乾杯をした。
「けど、大丈夫なの? こんなとこ高いんじゃ……」
「平気、平気。おととし、ここでシークレットライブした時、途中で電源落ちて中止になったの。そん時の借りを返したいから、むしろ今日はタダでいいって」
……エスカペイド、停電と聞くと、心当たりしかないが……果たしてあの一件とは関係があるのだろうか。
「そういう事なら、もっと頼んじゃおっと」
「よぉぉし、クマキュンもエンリョしにゃい!」
「お前、いつにも増して言葉が妙だぞ……」
「ちゅめたいなーん、カンジは……。……ん、カンジ? カンジ、カンジ……イイカンジ! なんつって、ブフーッ!!」
「ふっ……」
「なんで一人でそんなフルスロットルなんだよ……」
絶好調なクマのダジャレに、つい笑ってしまい、気づかれまいとそっぽを向いた。
「有里、ごまかせてないぞ」
瀬多くんが目敏く指摘し、隣に座る花村くんからの生ぬるい視線を感じる……。
「……。いいカンジ……。ぷッ……ぶふー!」
「おい、ちょっと待てよ!? ここに出てるドリンクって……」
「わ、私、ソフトドリンクって言ったよ!? ちゃんとノンアルコールだって!」
爆笑し始めた雪子ちゃんを見て慌てる花村くん。りせちゃんは必死で否定している。
「……。……言ったもん。ちゃんと言ったもーーん!!」
しかし言われてみれば、さっきから暑いような……いや、どちらかというと"熱い"か……。
「これ、マジで酒なんスか? けど、匂いが……」
なんか、ぼーっとしてきた……。