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帰り道。

「そっか、瀬多くんは親の仕事の都合なんだ。もっとシンドい理由かと思っちゃった、はは」

「よくある理由だよ。有里さんは?」

「えっ、あ……前の学校の寮が閉鎖になったのと……えと、親戚の人がちょっと体壊してて、静養……みたいな」

突然話を振られたので驚いてしまった。

しかし、なんとも説明しづらい。シンジさんには後で話を合わせてもらわなければ。

「そうだったんだ……? てか、寮かぁ。なんか、いかにも都会って感じ? ウチらなんかずっと家から徒歩だもん」

里中さんは何か引っかかったようだが、細かい言及は避けてくれたようだ。

「――ここ、ほんっと、なーんも無いでしょ? そこがいいトコでもあるんだけど、余所のヒトに言えるようなモンは全然……」

「染め物が有名って聞いた」

「そうそう! あと焼き物とか、ちょっと有名かな。ああ、あと、雪子んちの"天城屋旅館"は普通に自慢の名所!」

里中さんがそう言うと、天城さんは少し苦い顔をした。

「え、別に……ただ古いだけだよ」

「"隠れ家温泉"とかって雑誌とかにもよく載ってんじゃん。この町で一番立派な老舗旅館でね、雪子はそこの、次期女将なんだ。雪子んち目当ての観光客とかも来るし、この町それで保ってるよね、実際」

「そうなのか」

「……そんなことないけど」

実家の話はあまりされたくないらしい。

「ね、ところでさ、瀬多くん。雪子って美人だと思わない?」

「思う」

返答が早い。だが確かに天城さんは美人だ。

「でしょ!?」

「ちょっと、またそういう事……」

「学校でもすごいモテんのにさ、彼氏ゼロ。おかしくない?」

「や、やめてよいきなり。ぜ、全部ウソだからね。モテるとか、彼氏ゼロとか! あ、違った、えっと違うから! 彼氏とか要らないし! もう……千枝!」

「ははは、ごーめんごめん。だって折角なのに、ノリ悪いんだもん。てかさ――」

里中さんが不意にこちらを向いた。

「有里さんも美人だよね。あ、どっちかっていうと可愛い系?」

「確かに」

「うん。髪もきれいだし」

「……そんなことないけど……」

……素直に褒められると中々恥ずかしい。

というか、そういう里中さんもかわいいと思うのだが。

「やっぱ空気が違うよね、二人とも。あ、悪いイミじゃなくて。なんていうかこう、クールっていうの?」

「そうか?」

天城さんは頷き、瀬多くんは首を傾げている。

「……って、あれ、何だろ」

里中さんの視線の先には、KEEP OUTと書かれた黄色いテープとブルーシート、近くにパトカー数台が停まっていた。

周りを数人の野次馬たちが囲んでいる。半数以上が主婦だった。

「恐いわねえ。こんな近くで、死体だなんて……」

……あまり恐がっているようには見えないが……。

「え……今なんて? 死体!?」

里中さんが驚愕して声を上げると、テープの向こうから刑事らしき男性が一人こちらに向かってきた。

「おい、ここで何してる」

「ただの通りすがりです」

「ああ……まあ、そうだろうな。ったく、あの校長……ここは通すなって言ったろうが……」

「瀬多くん、知り合い?」

「コイツの保護者の堂島だ。あー……まあその、仲良くしてやってくれ。とにかく四人とも、ウロウロしてないでさっさと帰れ」

堂島さんがそう言うと同時に、若い刑事が目の前を走っていき、道の端で嘔吐した。

「足立! おめえはいつまで新米気分だ! 今すぐ本庁帰るか? あぁ!?」

「す……すいませ……うっぷ」

「たぁく……顔洗ってこい。すぐ地取り出るぞ!」

堂島さんが戻って行き、足立と呼ばれていた若い刑事がそれを追いかけていった。

「さっきの校内放送ってこれの事……?」

「アンテナに引っかかってたって……どういう事なんだろう……」

「ねえ、雪子さ、ジュネスに寄って帰んの、またにしよっか……」

「うん……」

「じゃ、私たちここでね。明日から頑張ろ!」

二人は帰って行った。

「今日はまっすぐ帰ったほうが良さそうだな」

「うん」

「家、どっちだ?」

「向こう」

「あ、同じだ。じゃあ一緒に帰ろう。――毎日」

瀬多くんに誘われ、今日は一緒に帰ることになった。

……毎日?

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