甘やかす理由 /後編
それから何度か真実の任務について行ったり普段の様子を見ているうちに、"あ、この子呪詛師向きの性格だな"ってことを理解した。術式の性質的にもね。
好奇心旺盛と言えば聞こえは良いけど、その矛先を間違えたら彼女は多分、意外なほどあっさりと高専を裏切るだろう。
とはいえ彼女も同級生の真希や棘、パンダとはうまくやっているし、憂太とも――編入初日に背後に憑いている里香を見て目を輝かせていたのはともかくとして――親しげに話しているのを見かけたことがある。
真実の教育方針としてはこうだ。まず同級生との仲を深めつつ彼らにより興味を持ってもらう。それから、まあ、適当に"呪術師の方が面白いよ!"ってのをアピールする。
要は呪詛師側の面白さに興味なんて持つヒマもないくらいにこっちのメリットを提示し続ければいい。幸い百鬼夜行では傑と遭遇させずに済んだし。それに最強の僕がいれば楽勝でしょ、と思う反面、僕の目の届かない範囲で何が起こるかわからないのが気がかりだ。
仮に彼女が裏切ったとしても、直接相手に触れる必要がある真実の術式からして僕は天敵だろうから対処は簡単だけど、将来有望なかわいい生徒に手を下したくはないしね。
――季節は巡って真実たちは2年生になった。そして、今のところこの計画は上手くいっている。
入学当初より明らかに笑顔が増えたし、同級生にもよく話しかけている。後輩になった恵ともうまくやれているようだし、この前は七海とも合同任務を無事こなしてきた。
恵は真実のある種の無邪気さに若干引いてたけど、真希たちがテキトーにフォローしているという。
ちなみにこれはマジでテキトーに真実の性格を説明したようで、恵はしばらく真実のことをサイコパスか何かだと思っていたらしい。確かに共感性は低いけど、真実も気遣いはできるし良心はあるからね、と付け足しておいた。とはいえまあ、まったくそれに当てはまらないわけではないけど。
実は僕も彼女の不思議な性格が気になっていろいろ聞いてみたことがある。
難しいこと聞く前に……と、怒られるの覚悟でスリーサイズを聞いてみたらびっくりしつつも普通に答えられてこっちが驚いた。あとこれ高専の廊下で聞いたせいで通りかかった硝子にゴミを見るような目で見られたしうっかり術式解いちゃって脛蹴られた。でもやっぱデカかった。お詫びに僕の下のサイズを教えてあげようと思ったけどさすがにやめておいた。本人は気にしなさそうだけど。
まあそんなこんなで根掘り葉掘り聞いてみると、要するに変わった性格は"家"が原因だとわかった。僕も深山家が変わった一族であることは知りつつもその実態を知っているわけではなかったから、その情報は結構な収穫だ。
内容には普通に引いたけど、真実本人は意外なほどケロッとしているから、家のことは放っておいても問題ないだろう。
――そういうワケで、僕は真実を他の生徒よりも甘やかしている。
*****
「……それを聞くのはもう3回目なんだが」
「まーまー、学長だって真実の様子気になるでしょ? 今日も大変だったんだよ、グラウンドにいたカエル2匹を術式で融合させようとしててさぁ」
「止めたのか?」
「いや、気になるから一緒に見てた。すっごい勢いでハジけ飛んじゃって、あれは極めれば危険な技になるだろうね」
「……次は止めろ」
「さすがにゴキブリとかだったら僕も止めるけど、真実は虫苦手だって言ってたし大丈夫でしょ」
「そういう問題じゃないんだがな」
学長は呪骸を縫う手を止めて、溜息を吐いた。お堅い話をされそうな気配を感じたので、僕は立ち去ろうとするも呼び止められる。
「深山のことはしっかり見ておけ」
言いたいことはわかる。真実は素直な性格故によく本質を見抜く子だ。そのうち、呪術師の仕事が対症療法でしかないことにも疑問を抱くだろう。
もしそうなった時、夏油のようにはさせるな、と言外に匂わせている。
「言われなくたって。真実は僕のかわいい生徒だからね」
学長はもう一度溜息を吐くと、部屋から出ていく僕には一瞥もくれずに裁縫を再開した。