お家柄

「あーもうわかんねえ!!」

「アンタさっきからうっさいんだけど」

座学が終わった放課後の教室で、頭を抱えた虎杖。

その両側から同級生である釘崎と伏黒が、机に広げられたプリントを覗き込んだ。

「お前、まだ終わってなかったのか」

「だってわかんねえんだもん」

「"もん"とか言ってもかわいくねーんだよ」

机にあったのは数学のプリントだった。あまり力が入っていないとはいえ高専でも一般教科を学ぶことはある。プリントは昨日宿題として出されたものだった。ちなみに提出期限は明日の朝だ。

「なーんかわかんねえんだよなーこういうの」

「そればっかじゃない。教科書写しゃいいのよそんなもん」

「いや解けよ」

一度書き込んだ数式を全部消していく虎杖。仕方ない手伝ってやるかと級友たちが思い始めたところで、教室の扉が開かれた。

「伏黒くんいますかー?」

「深山先輩、どうしたんですか」

「これ明日の任務の資料だって! さっき悟先生に渡されちゃって」

「あぁ、わざわざすみません。ありがとうございます」

真実は持っていた紙の束を伏黒に渡した後、虎杖の席に近づいた。

「あと、"ついでに悠仁の勉強も見てあげて!"って言われたんだよね。多分こっちがメインだと思うんだけど、虎杖くん勉強苦手なの?」

「えっ!? いや、別に全くできないわけじゃないんだけど……」

「教えてもらえばいいじゃない。唸っててもどうせできないんだから」

「……うし! 真実先輩、数学教えてください!」

何らかの覚悟を決めた虎杖は真実に向かって律儀に頭を下げた。

「つーか、前から思ってたけど真実さん勉強得意なの? 全くそう見えないわ」

「えぇ……」

遠慮なく釘崎に指摘されてたじろいだ真実。失礼だろ、と口では言う伏黒もまた同じ気持ちであった。

「まあ、得意だけど……お家柄的な? そういう風に設計されてるから。理系分野は小さい頃から色々叩き込まれてるし」

「……それ、どういう意味ですか?」

「そのままだよ。――あ、これ言ってないか。深山家はね、相伝の術式が呪霊討伐には全く向いてないんだけど、それ使って人体実験してるんだ」

「人体実験!?」

1年生3人はシンプルに引いた。そして引かれ慣れている真実は話を続ける。

「いや、よくある"誰かれ構わず拷問"みたいなことしてるんじゃなくてね?」

深山家相伝の術式は、対象を"置き換える"術式であるが、その対象はごく小さいものに限られている。呪術界では珍しく生命科学などの理系分野に特化した人間を多く輩出しており、高専卒業後は呪術師として前線には立たず研究を行っている者ばかり。

"置き換える"という術式を利用して塩基配列に意図的な変異を起こし、より優秀な人類を生産するための研究("優秀"の定義は色々あり、一定の基準で作っているわけではないが、細かいので割愛する)などを行っている。そのため深山家の子は皆いわゆるデザイナーベビーであった。

「だいたいそんな感じ」

「うわぁ……」

「これ話すたびに引かれるんだよねー。私は家の術式継いでないから研究はやってないんだけど、そのおかげで突然変異種扱いでたまにメンテしなきゃいけないから、これがめんどくさくてさ……って、まあそういう理由です。そんなことよりさっさと勉強やっちゃお?」

「いや、全然"そんなこと"じゃないんすけど……」

「え、じゃあ真実さんのその爆乳も遺伝子いじったってこと?」

「バッ、何聞いてんだよ釘崎!?」

「いや、これはただの遺伝。なんかうちの女は皆大きいんだよね。妹とかDカップでも他の姉妹に貧乳って言われてたし」

「マジかよ、狂ってんな」

「真実先輩もそれ答えんの!?」

ツッコミを入れつつも健全な思考を持つ虎杖の視線は真実の胸部に引き寄せられていた。身長タッパケツが貧しかろうが、そこに乳があれば見てしまうのが男子高校生というもの。

「虎杖、見すぎだ」

斜め上を不自然に見上げながら言う伏黒は、

「オメーもだよ」

と、事の発端である釘崎に理不尽にも蹴られていた。

「っていうか、真実さん妹いたんだ」

「あー、うん、いるよ。弟も合わせて確か15人くらい。上にも10人くらいいたよ」

『はい?』

「うちは実験で子供作ってるから、1人出来るのに1年もかからないんだよ。そんでまだ精度低いこともあってまともに成長できるのも結構少ないから、今は確か10人ちょっとかな」

「10人以上兄弟いんのって……名前付けんの大変そうだなぁ」

「あ、それは大変じゃないよ、代によって決まってるから。私は11番目だから"真実"なんだ。識別番号みたいな感じ」

「胸糞悪すぎて私もう聞きたくないんだけど」

「その話、他の人には?」

「悟先生と家入さんと学長は全部知ってるよ。真希たちは家が人体実験してるのは知ってるけど、兄弟の話は詳しくしたことないや」

世間話のノリで怪しい家業を説明されて無駄に疲れた1年生たち。

「まあまあ、宿題明日提出って聞いたし、早く片付けようよ」

「そうしたいんだけど……俺今何聞いても頭に入ってこない自信あるわ」

結局、虎杖の宿題は夕食後に食堂に居合わせた1、2年全員でだべりながら片づけたのであった。

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