審査のその裏で
【七海視点】
非術師家系出身の私は、高専時代に習う基本的な家同士の力関係や、術師として復帰した後の呪術界の知識しか持ち得ていない。そうして得た情報の中に深山家は存在していなかった。
「ぶっちゃけさ、真実のこと監視してほしいんだよね」
そう五条さんに頼まれたのはつい先日のことだった。彼の教え子の1人である高専2年生の深山真実という生徒。彼女とは時々同じ任務に就くことがあり、彼女が1年生の頃から顔見知りだ。
知り合って間もない頃は、端的に言って"よくわからない子"だと思っていた。それからこれを言われるのは彼女からしたら不本意かもしれないが、五条さんに似ている――と、そう思ってしまったことがある。具体的に何が似ているというわけでもないが。
明るい性格にやや軽い言動、まだ未熟ではあるものの確かに術師としての才がある……おそらく、五条さんに似ていると思ったのはこのあたりだろう。まあ、五条さんと違って彼女は性格が悪くないのが救いだが。
どうやら五条さんのお気に入りの生徒であるらしい深山さんの1級昇格任務に同行するよう、直々に頼まれると同時に言われたのが冒頭の言葉だった。
「監視、ですか。深山さんに何か気になるところでも?」
「んー、ほら、あの子好奇心旺盛じゃない? 最近は人語を話す特級呪霊とか出てきちゃってさ、真実はそういうの絶対興味持つと思うんだよね」
「……」
「真実も強くなったし、特級相手でも瞬殺はされないだろうからさ、会敵したとき仲良くなっちゃう可能性があんだよね」
「……呪霊と?」
「そ。真実はさぁ、ああ見えてしっかりイカれてるんだ。しかも悪気なく純粋に、成長するのを楽しんでる……呪術師としての成長なら大歓迎だけど、変化を嫌うこの業界だ、正直真実とは相性悪い」
「つまり、彼女が己の好奇心のために寝返らないかが心配だと」
「まあ、そういうことになるね。本当は僕が見てあげたいけど、全部の任務をサボれるわけじゃないし」
「サボらないでください」
そのツケはだいたい1級術師及び伊地知くんに回ってくる。
「――で、ここからが本題。真実の使える術式が増えたんだ」
「は? 術式は生来刻まれているものでは?」
「うん、そうなんだけど、深山家ってちょっと特殊でね」
五条さんの口から語られたのは何とも信じがたい話だった。というか、そもそもそんな話が何故今まで広まっていなかったのも疑問に思うレベルだ。
「あの子んち革新派の割にかなり閉鎖的でさ、こっちがちゃんと詳しく聞かないと全く喋らないんだよね。喋る相手もきっちり選んでるし、上層部ですらこの話を知らない奴もいる。まあ、真実がゆるい方で良かったよ」
人体実験などという現実味を帯びない単語、だが実際に行われている。五条さんはふざけた人間だが、本気で話しているかどうかくらいはわかるつもりだし、今回は残念なことに本気のようだった。
「深山家じゃ、真実は最高傑作なんだって。そりゃそうだよね。だからなおさら、高専に繋ぎとめておきたいんだよ」
「……」
「怖い顔すんなって、別に利害だけで言ってるんじゃない。上はそうだろうけど、僕はかわいい生徒を呪霊なんかに取られたくないからね」
「……わかりました。それで、新しく使えるようになった術式というのは?」
そう聞くと、五条さんはわずかに表情を強張らせた。しかしそれも一瞬のことで見間違いかと疑うほどだったが、続けられた言葉で見間違いなどではなかったことがわかる。
「呪霊操術」
「!? それは……」
「そう、傑と同じだ。僕の眼でも確認したし、実際見せてもらったよ。あの調子じゃ、すぐ使いこなせるようになるだろうね」
まあ、アイツみたいにとまではいかないかもだけど、――と。