VS悪女 /前編
「ちょっと聞いてよ真希さん真実さん!!」
突然2年の教室にかけ込んできた釘崎は、デカい声で愚痴を言い出した。
「金さん銀さんみたいだったね今の」
釘崎の愚痴をなんとなく聞きながら、真希にこっそり話しかける真実。
「話聞いとかねえと、後でお前だけ野薔薇にシバかれるぞ」
「えー……一応聞いてるけど」
釘崎の怒りを無心で浴びていると、今度は虎杖が教室に入って来る。
「すんませーん、釘崎来てない? っていた!」
「あれ、虎杖くんまでどうしたの?」
「いやー、俺もちょっと避難に」
そう言う虎杖から冷静な状況説明を受けた2年生たちは、何とも言えない空気になった。
「編入生ねえ、こんな時期に」
「もう交流会も終わってんのに、どう考えても変。つーかクソ女」
「私情がすごい」
虎杖たちによれば、その謎の編入生の女子――岡屋崎心美("ここみん"と呼んでほしいらしい)はたいそう男好きなようで、来て早々五条と伏黒にべったりだという。
「男好きなのに虎杖くんは無事だったんだ、良かったね」
「ああ、こいつはイモくさいからよ」
「ひどくね?」
「にしても、よくそんなヤツを悟が入学させたな」
「いや、それが五条先生もビミョーな顔してたんだよね。多分決めたの先生じゃないんだと思う」
「ツナマヨ、すじこ」
コネで入ったのかも、という狗巻の推測にあー、と納得の声が上がる。
「コネってことは上層部と何か関係あるってこと?」
「まだ確定じゃないけど、ないとは言い切れんわな」
6人で頭を悩ませていると、真実は釘崎たちに質問した。
「そのここみんさんはどんな子なの?」
「ここみんって呼ぶなよ。……さっきも言ったけど、男好きね。そんでぶりっこ。厚化粧。香水臭い」
「ほぼ悪口じゃねえか」
「先輩たちだって見たらわかるわよ! 特に真希さんとか絶対嫌いなタイプ」
「だろうな、そんな気はするわ」
「でもアレだね、悟先生と伏黒くんが犠牲になった今、次のターゲットになりそうなのはもう棘しかいないよね」
「おかか……!!」
「しょうがねえ、今回は俺の後ろに隠れてていいぞ」
「しゃけ、高菜!」
まだ岡屋崎が姿を現していないというのに、すでに狗巻はパンダの後ろに隠れていた。
「まだ会ってないのに、そこまでしなくても……」
「ありゃふざけてるだけだろ」
虎杖の言葉に真希は呆れながら返す。
「私ここみんさん見てみたい」
「げっ、真実さんマジで言ってんの?」
「どんな魂してるのかなって、ちょっと見てみたくて」
「魂って何よ……」
「術式でねー、練習してたらなんか最近よく見えるようになったんだ。結構、感情表現と連動してるんだよね。ここみんさんのこともわかるかも」
「さらっとすごいこと言ったな。真実の前でもう嘘つけないのか」
「いや、嘘発見器じゃないから……」
「まあ、そういうことなら物陰から窺ってみたら? 正面から行くと嫌味言われるわよ、私も言われたし」
「なんて?」
「ダサい田舎者――って、言わせんじゃないわよ!」
「えっ、ごめん。私は何言われるかなー」
「真実先輩、何でちょっと楽しそうなの……?」
*****
1年の教室を扉の小窓からこっそり覗く真実と釘崎。後ろには虎杖たちがついてきている。
「おー、なんていうか、典型的」
「でしょ?」
高専の制服が間に合っていないのか、前の学校のものと思われる制服を着ていた岡矢崎。そのスカートはギリギリまで短くされており、生足がさらけ出されている。染められたセミロングの茶髪はくるくる巻かれていて、シャツのボタンは谷間が見えるほど開けられていた。
「なんかこう、完成されてて逆にツッコミどころがないね」
「どんな評価よそれ。で、魂ってのはどうなの?」
「うーん、おもしろくない」
「どういうこと?」
「えー、説明難しい。特にどうということもないような感じ? 形イジるのは簡単そう」
「……まあ、アイツが大したことないってのはわかったわ」
「そうそう、それ」
真実と釘崎がこそこそ話している後ろで、虎杖たちも雑談をしていた。
「真実先輩、意外と釘崎と仲良いよな」
「しゃけ」
「ああ、アイツらよく一緒に買い物行ってるしな。私もたまについてくけど、案外気が合うみたいだな」
「えっ、そうなの?」
知らなかったー、と虎杖は感心する。
「野薔薇のヤツ、ああ見えて面倒見良さそうだしな。真実みたいなのはほっとけないんじゃね?」
「すじこ、いくら」
パンダの言葉にわかる気がする、みたいな感じで頷いた狗巻。そんな狗巻をパンダと真希がからかうまでがいつものパターンだった。
「確かに真実先輩ってちょっと危なっかしい感じあるなぁ」
「お、棘のライバル出現か?」
「おかか!」
「アンタらさっきからうっさいんだけど!」
小声で怒る釘崎だったが、すでに教室の中から顔を出した五条に全員見つかっていた。
「あっれー、みんな何してんの? ――入っておいでよ」
道連れにしてやる気マンマンの五条だった。