縛られた
「おっと、そこまでね」
触れていた手を掴まれて術式は解かれた。
「自覚がないだけで、魂自体は知覚できてるみたいだな」
真人さんは独り言みたいにそう呟く。マジっすか、というのが正直な感想だ。えっ、じゃあ私が今まで触れようとしてた"核"って魂だったってこと?
「よし、決めた」
あっこれ絶対ロクでもないわ。
「呪術師やめて、俺たち――っていうか俺についてよ。楽しくなりそうだしね」
「えぇ、無理ですってば」
「じゃあ今殺しちゃうよ? いいの?」
途端にとんでもない殺気を放たれて硬直した。
術式が効かないのはお互い様だけど、純粋な力勝負じゃ特級っぽい真人さんに勝てるわけがない。実質選択肢とかないじゃん。
「このまま帰したら、真実は俺やこの場所のことを他の呪術師に伝えるでしょ? それはまだ困るんだよね」
「言わないって約束したら?」
我ながらアホなことを言ってる自覚はある。こんなんで釣れるわけないのに。
「それは命乞い? それとも、"縛り"がほしいのかな」
真人さんは考えるそぶりを見せた。うそ、意外といける?
ぶっちゃけ命が惜しい。呪術師に後悔のない死はないとか言うけど、こんな急に死にたくないに決まってる。
「……まあいいか。俺としても君をすぐに殺しちゃうのは惜しいしね」
殺気はおさまったけど、まさかタダで帰してくれるはずもない。私が柄にもなくビクビクしていると、真人さんはそれを見て笑っていた。ちくしょう悔しい。
「君は"俺と会ったこと、今後関わること、俺との記憶全てを他人に明かさない"。代わりに俺は"君には危害を加えない"。これでどう? かなり譲歩したと思うけど」
「わかりました」
「迷わないんだね」
「断ったら今すぐ殺されるじゃないですか……」
「そりゃもちろん。君みたいなのが敵にいると厄介だしね」
「呪霊の味方にはなれませんけど」
「うん。呪術師にそこまで望んでないから。呪術師やめたらいつでも歓迎するよ」
「わ、わあ、逃げ場があって嬉しいなー!」
「冷や汗すごいけど大丈夫?」
「大丈夫です、ってことで今日はもう帰っていいですか?」
「命拾いした途端に強気だね。まあ、また来てもらうから今日はいいよ」
「えっ、まだ何かあるんですか」
「さっきの話、ちゃんと聞いてなかった? 今後関わることも他言無用だ。君には俺の実験を手伝ってもらうし」
「実験……?」
「そう。大丈夫、きっと楽しいよ」
嘘つけ。などと言い返す度胸はなかった。
っていうか忘れてたけど今までの話全部真人さんの上に乗っかったまましてた。いや恥ずかしすぎる。
「じゃあ、今日はこれで帰ります。実験するときはバレないように誘ってください」
「オッケー」
かっる。こっちは死にかけたのに返事軽すぎるよ。
「ああ、残穢は残してないから安心しなよ」
「えっ、あ、ありがとうございます? じゃあ失礼します」
そう言ってハンモックから降りようとすると、不意に腕を引かれて、気づいたら視界いっぱいに真人さんの顔がある。
キスだこれ。えっ、何故? 慌てすぎて逆に冷静になってしまった。
「俺を意識させれば、多少は揺らぐかと思ったけど」
「は、はあ……?」
「まあいいや。じゃ、気をつけて帰りなよ」
「あっ、はい」
若干ポカンとしたままトンネルを後にすべく歩き出す。
「あ、そうだ真実。帰り、逆側だよ」
「そういうのは先に言ってくださいよ!」