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その日の夜。
私は滅多に使わない自転車を漕いで、夜多の森弓道場へ急いでいた。
やっぱり部活を終えてからだと結構遅くなってしまう。
けど、今日で雅貴くんの一万射が終わる……はず。
間に合わないかもしれないけど、行かないという選択肢はなかった。
*****
弓道場の鍵はすでに締められていた。
横道から中を覗いて見ても誰もいない。
今日は来ていないのか、もう帰ってしまったのか。スマホを見ても連絡はない。
「静華?」
「っ、あ、雅貴くん……!」
後ろから急に話しかけられ、驚いて振り向くとそこにはちょうど探していた雅貴くんの姿があった。私服を着ているから、もう弓は引き終わってしまったんだろう。
「…………」
「静華、どうしたんだーーって、おい、泣いてるのか!?」
どっかケガしたのかなんて聞きながら、雅貴くんは駆け寄ってきてくれた。
「雅貴くん、弓、やめちゃうの」
勝手に流れてきた涙を袖で拭いながら聞く。
「こら、あんまりこするなよ。赤くなるぞ」
「雅貴くん」
「……悪い。一万射はもう終わった。お前に連絡しようかとも思ったんだが、"弓をやめるから見に来い"なんて、言う気になれなくてな」
雅貴くんの顔を見上げようとすると、頭の上に手を乗せられてそれは叶わなかった。
少しの間、沈黙が訪れる。
「安心しろ、弓道はやめない」
「えっ……なんで?」
「何だ、やめてほしかったのか?」
「違う、けど……」
一万射なんて大仰なことをしておいて、何で急にそんなことになったのか。単純に疑問だった。
「じゃあ、またここに来ていい? 弓、教えてくれる?」
「ダメだ。……って、おいおい、今日は泣き虫だな。まあ最後まで聞けよ」
「もったいぶらないで」
「悪い悪い。痛っ、こら、殴るな」
絶対悪いと思ってない。へらへらしててちょっとムカついたので脇腹を突いた。
「理由はまだ言えないが、お前はもうここに来る必要がなくなる」
「?」
「大丈夫。弓を続けてれば、必ずまた会えるさ」
「"さ"って……」
何か企んでるように笑った雅貴くんは、私の手を引いて神社から出た。
「今日は送らせろよ」
「……自転車で来たから大丈夫」
「こいつは人質だ」
雅貴くんに自転車を取られ、大人しくついて行くしかなくなった。
「そうだ、そろそろ髪を切ろうと思ってるんだが、どうだ?」
「どうって……」
雅貴くんの"しっぽ"を見上げた。長髪でも短髪でもどうせかっこいいに決まっている。
「短いのも似合うと思う」
「そうか? ーーああ、あと明日、中崎さんのところにも行こうと思ってるんだ。一緒に行くか?」
中崎さんのとこといえば、中崎弓具店。私も何回か雅貴くんに連れられて行ったことがある。
「行く」
「よし。学校終わったら連絡しろよ」
「うん」