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一万射を終えるこの日、静華はまだ夜多神社には来ていなかった。

放課後は部活があるから遅くなるんだろうが、今日は来ると思っていたから、連絡もないのが少し心配だ。

とはいえ、俺から連絡するのもな。

静華は口には出さないが、俺に弓を続けてほしがっている。それは最近ここに来るようになった鳴宮湊という少年も同じだった。

湊も早気に苦しむ弓引きの1人だった。

そういえば、静華にも以前早気の相談をされたことがあったな。しかも、静華自身ではなく幼馴染が早気になったとかで。

競技としての弓道が主流となっている学生には早気は珍しいことではないかもしれないが、静華があんまり深刻そうにしていたもんだから、俺もつい過去の経験を話してしまった。まあ、単純に頼られて嬉しいってのもあるが。

静華の射型は初めて見た時から綺麗なものだった。それが弓道を始めて1年ちょっとだと言うもんだから、俺もついこの先どう伸びていくのかが気になってしまったんだっけな。

部活の先輩やコーチ、経験者の友達にしか教わっていないという静華の射に、ちょくちょく口を出してしまったのもそれが理由だった。

……なんて、それだけが理由じゃないことくらい、自覚があるんだがな。

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結局、この日訪ねてきたのは湊だけだった。

そして、一万射、最後の一射を湊に引いてもらい、俺は弓道を続ける決心をした。

それから、以前一度断ってしまった、風舞高校弓道部のコーチをやってほしいという森岡先生からの誘い。これを引き受けることにした。

あまり遅くならないうちにと森岡先生に連絡すると、一度断ってしまったにもかかわらず歓迎すると言ってもらえた。本当にあの人には頭が上がらない。

湊も明日から弓道部に入部するという。そうしたら、静華とも知り合うんだろう。

静華ならきっと湊の手助けもしてくれるだろうし、他の部員だっているはずだ。早気がそう簡単に治るとは言えないが、弓道部への入部は確実に湊の射にも、湊自身にも良い影響を与えるだろう。それに、俺のことを幽霊だと勘違いしていた湊は、少し抜けたところがありそうだしな。ぜひとも支えてやってほしいところだ。

まあ、結局その場にはコーチとして俺もいるわけだが。驚かせてやりたいから、就任当日まで言うつもりはない。

そんなことを考えながら神社を出て階段を下りると、来た時にはなかった水色のフレームの自転車が一台停められているのを見つけた。

湊はもうとっくに帰っている。もしやと思い、下りたばかりの階段をまた上り、弓道場へ急いだ。

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弓道場に戻ると、そこにはやはり静華がいた。

俺がすでに一万射を終えたと知ると、驚いたことに彼女は泣き出してしまった。といっても、ぐずったりするわけでもなく。

彼女のまばたきとともに涙がこぼれる。すぐにそれは彼女自身の手で拭われた。

我ながら不謹慎だとは思うが、俺のために泣いてまでくれるんだと思ったら、自然と口角が上がってしまう。

そんなニヤけた顔を見られないよう、静華の頭を軽く撫でてごまかした。

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