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雅貴くんがコーチに就任して数日。
今日も県大会予選に向けての練習だ。そして今日も海斗はイライラしている。素朴な疑問だけどあんなに怒って疲れないのかな。
今は弦張りに苦戦する遼平を見てイラついているようだ。
「ったく、早くしろよ」
「ごめんっ、力の入れ具合がよくわかんなくて……!」
弦を張るのは確かに最初ビクビクする。そのまま弓を折りそうで。
「んなもん、グッとやってガッってやりゃいいだよ」
「グッっとやってガッ……おお、できた! ありがとう小野木!」
「あっ、危ない」
遼平が海斗の方を振り返ると同時に、持っていた弓の末弭が湊にぶつかりそうになった。とっさに手を出してしまったが、弓を受け止めた私の手の甲が湊のおでこにぶつかった。
「静華、湊! 大丈夫!?」
「ごめん2人とも!」
「おれは全然。それより静華の手が」
「このくらい大丈夫だよ」
慌てた様子の静弥に手を掴まれたけど、別にあざになるほどの衝撃じゃなかった。湊のおでこもしかり。
「遼平、弓を持ってるときは周りをよく見て」
「海斗も、急かしたら危ないよ。慣れないうちは時間かかるのも仕方ないんだから」
遼平には静弥が注意してくれたので、私は海斗にそう伝えた。
「悪かったって……」
「手、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。湊も心配しすぎ」
「いや、おれを庇ってくれたんだし、手をケガしたら弓にも影響するかもしれないだろ。心配しすぎってことはないよ」
「それはそうだけど……」
「とりあえず大丈夫そうだけど、異変があったらすぐ言ってよ」
「静弥まで。……わかったよ」
大げさだなとは思うけど、心配してくれてるから無碍にもできない。とはいえこれ以上話を続けても遼平と海斗が気まずくなるだけだろうから、この話は終わらせたい。
「おーい、弓道部員集合」
ちょうどいいタイミングで雅貴くんがやってきた。しかし、なにやら怪しげな笑みを浮かべていて、何か企んでいそうだ。
「今日はちょっと面白いことをやるぞ。ズバリ模擬試合だ。本番と同じ5人立ちでやろう。県大会予選も近いしな」
「模擬試合? 女子は団体戦には出ませんし、そもそも人数が足りませんわ」
「女子チームには俺も入るから大丈夫だ」
確かに、普段の練習は射込みがメインだから、団体戦に出る男子は体配の練習も必要だろう。女子もそのうち部員が増えれば団体戦に出る可能性はある。
「勝負というからには、当然勝ったチームには賞品が出る」
「えっ、なになに?」
「負けた方を好きに使える下僕権だ。掃除でも荷物持ちでも、何でもやらせていいぞ」
負けたときを想像して、みんなが嫌そうな顔をした。要するに雑用係だし、地味に嫌だな。
「そんな、もし負けたら……」
「勝てばいいんだよ。ーーそれから、今日は特別に"鬼の射手"が試合に参加してくださる」
「鬼の射手? 誰それ」
と、遼平が質問すると同時に道場の扉が開かれた。そして入ってきたのは、
「わしのことじゃよ」
トミー先生だった。