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ゴミ捨てとトイレを終え、待機場所に戻る途中。
「静華さん、少し会場を見に行ってみませんか?」
「え?」
「そこから客席に入れるようですわ」
乃愛の誘いは意外なものだったけど、少し覗いてみると選手も何人か見に来ているみたいだし、せっかくなので行ってみることにした。
「おー、客席テントある。良かったね」
「ええ。ゆうなさんも試合の動画や写真を撮るとき、光の加減を気にされていましたし」
「そうなんだ。ゆうな、写真撮るの上手いよね」
少しの間、乃愛と話しながら会場内を見て回った。そろそろ戻ろうかというところで、
「静華ねえさま!」
と、声をかけられた。
呼ばれなれない呼称に反応が遅れたが、後ろから聞こえてきた声に振り向くと同時に、腰あたりに軽い衝撃が。
下を見ると、幼女に抱き着かれていた。
「……沙絵ちゃん?」
「ごめんなさい! 静華ねえさまだと思ったら、つい……」
そう言って顔を上げたのは愁の妹、沙絵ちゃんだ。多分、愁の応援に来たんだろう。愁が家族を大会に呼ぶなんて珍しい。
「静華さんの知り合いの子ですか?」
「うん。友達の妹さん」
乃愛に沙絵ちゃんを紹介すると、沙絵ちゃんも私から離れて礼儀正しくお辞儀をした。
「1人……じゃないよね? 東条さんは?」
聞いたところで、こちらに走って来る男性の姿が見えた。藤原家の執事をしている東条さんだ。
「沙絵お嬢様……!」
慌てた様子の東条さんだったが、沙絵ちゃんと一緒にいるのが私だとわかり安堵の表情を浮かべた。
「これはこれは、ご無沙汰しております、竹早さま。そちらのお嬢様はご友人で?」
「お久しぶりです、東条さん。白菊さんは友達で、弓道部の仲間なんです」
東条さんの様付けの呼び方は少しむずがゆく感じるけど、これは"こういうもの"だからとだいぶ前に受け入れていた。
「あら? ねえさまたちの着ているジャージ、先程の方と同じ色ではないですか?」
「おや、おふたりも風舞高校でしたか」
沙絵ちゃんと東条さんは私たちのジャージを見て驚いていた。
「? そうですけど……風舞の部員に会ったんですか?」
「ええ。わたしたち、道に迷ってしまって……親切な方がこちらまで案内してくださったんです」
「ああ、遼平か」
「どうして今のでわかりましたの?」
「そんな親切な人、うちには遼平以外いないかなって。――沙絵ちゃん、それって、こーんなに背が高い男の子じゃなかった?」
片手を頭上に掲げて遼平の長身を現した。
「そうです。静華ねえさまのチームメイトの方だったのですね!」
「うん」
「わたし、ねえさまたちの学校も応援します」
「ありがとう。でも、愁の次くらいでいいからね」
「そんな……わたし、静華ねえさまのことは、愁にいさまと同じくらい応援したいのです。だって、将来はわたしのねえさまにもなっていただけるのですから」
「……え、それってどういうーー」
沙絵ちゃんの今の言葉について詳しく聞こうとすると、乃愛がはっとしたように声をあげた。
「あっ、いけない! 静華さん、そろそろ時間ですわ」
「え、待って待って、今のーー」
「個人戦の集合時間まで、あと10分しかありませんのよ!」
「えぇっ、うそ!?」
「すみませんが急ぎますので、わたくしたちはこれで失礼いたします!」
乃愛に手を引かれて沙絵ちゃんと東条さんと別れ、集合場所へ急いだ。
とんでもない誤解を解けないまま。