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医務室で簡易的な診察を受けたところ、おそらく一時的な貧血とのことだった。
医師は会場の方に呼ばれて医務室を出て行ったが、回復するまで安静にと言われ、鎮痛剤を飲んだ静華はベッドで丸くなっている。
「雅貴くん」
「どうした?」
「ごめんなさい。今日のは、その、良い射じゃなかった」
「体調不良は仕方ないだろ。今は回復に努めて、また練習すればいいさ」
「……いつもはこんなにひどくならないのに」
静華の呟きにはうまく返すことができなかった。
体調不良の原因は女性の周期的なものだったようだ。俺が聞いたときに静弥が答えを躊躇ったのは、それが理由だとわかっていたからだろう。
「男子の団体戦、間に合う?」
「ああ。静華も応援に行きたいなら、今のうちに休んでおけよ」
「うん。薬効いてきた気がする。もう戻る」
「話聞いてたか?」
ベッドから身を起こして戻ろうとする静華。確かに体調は改善してきているように見えるが、俺はそれを止めた。
「団体戦まではあと20分ある。それまではここで休め。――それとも、俺と2人きりは嫌か?」
「……ずるい聞き方」
静華は少し唇を尖らせて拗ねたように言った。部員たちと一緒にいるときにはなかなか見ない表情だ。
「男子は大丈夫そう?」
「どうかな。って、今それ聞くのか」
「だって……」
「照れるなよ。将来的には、これが日常になる予定だろう?」
「はぁ……エロおやじ」
「何でそうなるんだ!?」
静華は体育座りになり、膝に顔を埋めた。少しからかいすぎたか。8割ほどは本気だが。
「ジャージ持ってくればよかった。着替えたい……」
「まだ個人戦の表彰があるだろ?」
「あんな射で勝っても納得されないよ」
「お前なあ。そんなこと言って、ひどかったのは最後の一射だけだったぞ」
ミスに慣れていないのか、静華は意外と落ち込んでいた。
「いいから、反省はまた今度、部活のときにしよう。それから、静弥にお前の無事は連絡しておいたから、男子のことも心配ない」
「……わかった」
顔をあげた静華はぶんぶんと首を振り、ついでに両頬を挟むように手のひらでぺちんと軽く叩いた。どうにか気持ちを切り替えたらしい。
*****
静華は戻る前に乱れた着装を直すため、俺は先に医務室から出て待っていた。
「お待たせ」
少しして医務室から出てきた静華は落ち着いていた。
「もう大丈夫そうだな」
「うん。試合中がピークだったみたい、今は全然普通」
静華はそう言って腹をぽんと軽く叩いた。治ったのはいいが、なんというか、あけすけだな。
それから俺たちはみんなのところに戻るべく歩き始めた。が、何故か静華にシャツの袖を引っ張られている。
「どうした?」
「10秒だけ」
何が、と聞く前に、袖をつまんでいた静華の手が下りてきて、俺の手を握った。
周囲に人はいない。とはいえ一応公共の場だ。だからこその"10秒だけ"なんだろうが。
「悪いな、こそこそさせちまって」
「別に。雅貴くんのせいじゃないし」
俺が同年代だったら、こうして手を繋いで歩いていてもーーいや、ただの試合会場でいちゃついているバカップルか。
静華の手を握り返してゆっくり步を進める。
もう10秒経ったのか、静華は手を離した。だが、俺はその手を再び掴み、静華の体を抱き寄せた。
「ちょっと」
「5秒だ、5秒」
静華の後頭部と背中に手を回した。思っていたより華奢で、力を入れたら折れてしまいそうだ。なんて思いながら下を向くと、静華と目が合った。
「雅貴くん、なんか良いにおいする。何の洗剤使ってるの?」
「は?」
とっくに5秒は過ぎていたが、俺のにおいを嗅ぐ静華はまだ腕の中にいた。