3
「対戦することになっちったね」
3回戦が始まる直前、控えに入る前の廊下で辻峰高校の選手たちと遭遇した。
先頭を歩いていたパーカー姿の男、大前の二階堂さんは陽気な感じで声をかけてくる。
「試合、観ました」
「あ、そう」
「5人全員斜面打起こしで、なんかかっこよかったです」
二階堂さんの興味なさそうな返事を気にも留めず、作文のような感想を言い出した湊。
辻峰の選手たちは、なんていうか、自由人の集まりといった感じだ。
どこか軽い調子で掴みどころのない二階堂さん、その横の人――確か不破さんは一見まともそうだが髪に赤メッシュが入ったオシャレさん。それから長身の遼平に絡む大男に、ふらりと歩き始める小柄な3年生、それを引き止める行為はまともだが、長髪に黒マスクをつけたこれまた3年生。ビジュアル強すぎっしょ。
「お互い県大会優勝校だ。もう全国大会への切符は持ってんだから、楽しくやろう」
そう言った二階堂さんは、湊から静弥に視線を移した。
「おひさ、静弥ちゃん。まだ一緒にいるんだ。静華まで巻き込んで?」
「……お久しぶりです。先輩が弓道を続けていたと知って、嬉しいです。それに妹のことまで気にかけてくれて、ありがとうございます」
静弥は警戒しているのか、見事な他所行きスマイルだ。
「な、こういう奴。折目正しいだろ?」
「うちとは真逆だな。で、"静華"ってのは、さっき話してた子か?」
「ああ、可愛いだろ? 俺の元カノなんだ」
「……それは気の毒に」
「どういう意味?」
二階堂さんと不破さんは、オレたちに構わず軽口を叩き合っていた。が、
「……みんな、何故俺を見るんだ」
オレたちは揃ってマサさんの方を振り返った。何故って、湊と静弥以外で唯一静華の中学時代を知っているのがマサさんだからに決まってるっしょ。
「静華って、二階堂先輩と付き合ってたのか……!?」
「まあ、さすがに僕は知ってたけど」
「なら、何でさっきーー」
「静華が言わないのに、僕が勝手に言い出すのもおかしいだろう。それに、弓道には何の関係もない情報だしね」
湊は知らなかったようだけど、静弥は知っててオレたちには言わなかったようだ。かっちゃんはそういうの気に食わないと思うけど、静弥の言い分は正しい。
「ま、まあまあ、試合前にオレたちに揺さぶりかけてるだけかもしれないっしょ? 気にしない、気にしない」
「いや、残念だが七緒、彼が言っていることは事実だ。まあ、気にする必要はないと思うが」
マサさんまでテンション下げないでほしいんだけど!?
オレだって二階堂さんの発言を疑っているわけじゃない。けど、思いのほかかっちゃんがダメージを受けているっぽいからさ……。それにオレだって少なからずショックを受けている。
どうするよこの空気、と思い始めたところで、係の人からの呼び出しがかかった。
「あ、そうだ、風舞の先生。待機所での指導は禁止なんでしたっけ?」
「おう。規約にある通りだ」
「あざっす」
後ろに自分たちの顧問がいるのに、わざわざマサさんに質問した二階堂さん。さっきから発言の意図がわからない人だ。
「不破、取懸け。太田黒、弓手。樋口先輩、足踏み。荒垣部長、脳天。各人注意。――以上っす」
二階堂さんの発言はまさに指導だった。顧問らしきメガネのおじさんは、予備の矢を持って後ろをついていくだけで、部員のやり取りには全く口を出さなかった。
オレたちは多すぎる情報に困惑していたけど、気を取り直して、待機所に向かった。